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宗報

若者を対象とした協賛行事を終えて〜ねらいと成果〜

宗報(2018年2月号) シリーズ「子ども・若者ご縁づくり」第14回

若者を対象とした協賛行事を終えて
~ねらいと成果~

 第25代専如門主伝灯奉告法要を機縁として、門信徒の皆様はもちろんのこと、お寺にご縁の薄い、またはご縁のない方々にも、お念仏のみ教えが広く伝わることを願い、12月9日・10日に「若者を対象とした協賛行事」を開催いたしました。阿弥陀堂では9日を「ご縁の薄い(ない)若者を対象としたプログラム」として「スクール・ナーランダ特別編」、10日を「ご縁のある若者を対象としたプログラム」として「本願寺ギャザリング」、また本願寺白洲内では、全国で新しい取り組みに挑戦している浄土真宗本願寺派のお寺、僧侶、団体を一堂に集めて紹介する「ごえんさんエキスポ」を両日開催し、約8、500名のご参拝をいただきました。
 

若者を対象とした協賛行事を開催するにあたり

 少子高齢化、若者世代の宗教離れ、寺院数の減少。いま日本の仏教を取り巻く環境は、あまり明るいとは言えません。しかし、いつの時代も人々には悩みや苦しみがあることに変わりはありません。私たち僧侶は、いまを生きる若者たちの悩みや苦しみに、本来応えるべき役割を果たせているのでしょうか? また、浄土真宗のみ教えを伝えるために、現代に対応した様々な工夫を凝らしたアプローチができているのでしょうか?
 親鸞聖人は、経典の教えを「和讃」という詩歌にされました。また、蓮如上人は「御文章」というわかりやすいお手紙を書かれ、「時代と人に合わせた伝え方」を工夫されてこられました。「いま私たちがいただいている浄土真宗のみ教えを、どのようにしたら次の世代へ伝えることができるのか?僧侶の役割を含めそれをみんなで考え、行動へつなげていきましょう」。
 この度の協賛行事には、そんな願いが込められています。


ごえんさんエキスポの風景.JPGごえんさんエキスポの風景
 

「多様な入り口」と
「小さな階段」をたくさん作ろう

 2015年に開催した、仏教やお寺、僧侶の未来形を語り合う「仏教プレゼン大会(*1)」のプレゼンテーターの一人であった寺社旅研究家の堀内克彦さんは「お寺を外側から見ると、浄土真宗では初心者を対象にしたプログラムがあまり開発されていないと感じています。そんなことないと思われる方もいるでしょうが、大げさに言えば小学生と大学生が、一緒に数学の授業を受けるようなものです。だからこそ小さな階段を作ってほしいのです。小さな階段とは相手が抵抗なく踏み出せるもの。いきなり高い壁があると人は入り口で引き返します」とお話しされました。
 これまでは、自治会や婦人会、子ども会等の地域コミュニティでお互いに誘い合う関係があり、初めての方でもお寺にお参りするご縁がいくつもありました。知り合いが声をかけてくれることにより、初めての方でも安心してお寺に足を運ぶことができますし、何度もお参りするうちに、浄土真宗のみ教えに触れる機会も増えてきたことでしょう。しかし、今ではこうしたコミュニティの多くは衰退し、地縁的なつながりは希薄化しています。今後は、お寺や僧侶と関わる機会はより少なくなり、それがご縁のない方との距離感をつくり、宗教自体に不透明感を抱き、日々の生活に必要性を感じなくなるのかもしれません。この度は、たくさんの「面白い」「楽しい」を入り口にして、本願寺や僧侶に馴染んでもらい、浄土真宗のみ教えや様々な活動に触れていただくことを目指しました。
 

「誰でも」ではなく
「あなた」に伝えたい

 近年では社会環境の変化により、ライフスタイルや価値観の多様性が進み、子ども期と青年期の境界、青年期と成人期の境界のどちらもあいまいになり、子ども期、青年期、成人期の区分は単一の尺度で測ることが難しくなってきています。
 そこで、「若者を対象とした協賛行事」の企画段階から、昨年9月に開催した中央連絡協議会・研修会で学んだマーケティング手法(「ペルソナ(*2)」や「セグメンテーション(*3)」)を導入し、また、行事の対象者である若者世代の学生や社会人・僧侶にもスタッフとして参画してもらうことにより、「若者と僧侶・お寺」の多方向から現状を整理、理解することに努めました。このように試みた結果、対象者をより具体的にイメージすることができ、この度の協賛行事は20代から40代までの世代を「次代の宗門の基盤づくりの担い手」と位置づけ、阿弥陀堂プログラムでは「ご縁の薄い(ない)若者」と「ご縁のある若者(僧侶・寺族・門信徒)」の二つに対象を分けました。対象を明確にすることにより、「誰でも」から「あなた」へ、「伝える」だけでなく「伝わる」メッセージを直接届けることができたと思います。
 

僧侶たちの新しい取り組み
~コミュニケーション重視~

 ワークショップや若手僧侶との交流が行われた「ごえんさんエキスポ」では、各教区での取り組み・活動の紹介ブースや人々の愚痴を集める「グチコレ」や、「死」について僧侶と語り合う「デスカフェ」など僧侶と触れ合うブースが出展し、また、若者の中でいま話題を呼んでいる「サイレントフェス(サイレントディスコ(*4))」ブースでは、「テクノ法要」「向源」「School of Temple」など全国のお寺で音楽イベントを主催する僧侶DJが登場し参加者と僧侶が一体となって盛り上がりを見せました。このエキスポは、51団体による36ブースが出展され、ユニークでアクティブな若手僧侶の活動にふれることができました。
 既にニュース記事(*5)で伝えられているように、2009年頃より起こったといわれている「仏教ブーム」により、お寺の側にも気軽に仏教とふれあえるような様々な取り組みを行う動きがみられ、仏教に親しむ人が増えてきているようです。また「仏教ブーム」について、ある大学の調査研究(*6)の中には、「イベントに参加する若い世代は、生き方の指針を僧侶に求めており、僧侶の側はカウンセリングをするようにこれらの人々に接している。僧侶の側は、お寺は敷居が高いというイメージを払拭し、距離を置いていた人々と仏教を出会わせるきっかけとして考えている」と報告がされています。
 「本願寺ギャザリング」に出演された、ソフトバンクロボティクス株式会社が開発した感情認識パーソナルロボット「Pepper」の開発リーダであった林要さんは、「日本人の多くは仏教に安心や信頼を感じている。僧侶には思いや悩みを共感してくれるイメージがある」と話され、各ブースで僧侶たちが参拝者と接する姿が、基本的にアドバイスより傾聴を重視しており、仏教的な教義を基本としつつも、それを前面に押し出さないスタイルに注目されました。
 もともと浄土真宗のお寺は、修行の場ではなく、阿弥陀様の話をともに聞く場であり、僧侶は伝統的に門信徒とのコミュニケーションを重視してきた背景があります。この度の「ご縁さんエキスポ」は、そのようなお寺や僧侶の本来ある役割を表現した一つかもしれません。
 

時代に応じたコミュニケーションツールを活用

 この度の協賛行事では、若者世代を中心とした現代的なコミュニケーションスタイルである、LINE、Facebook、InstagramなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用した情報発信やコミュニケーション活動を重点的に行いました。また、時代に合ったコミュニケーションツールを利用することで、ご縁の薄い(ない)方とお寺や僧侶・浄土真宗のみ教えとの出会い、全国各地で活動している僧侶同士の出会いをつくることができました。そして、参加された方々と新しい関係性をつくっただけではなく、各地での僧侶たちの活動に参画する希望者もあり、協賛行事をきっかけに「ご縁づくりの輪」がさらに広がり始めたことを実感しています。
 

協賛行事を終えて

 協賛行事のアンケートでは、約90%の方からこの度の取り組みへの評価として「仏教を親しみやすくする良い試みだと思う」という肯定的なご意見をいただきました。参加された方の中には、お勤めを聞かれて声明のCDを購入された方もいらっしゃいました。
 また、僧侶の側もこのようなイベントはきっかけであり、より多くの人々にみ教えが伝わるために様々な工夫をされていることがわかりました。そしてほとんどの方が、自分たちの活動を楽しみながら取り組んでいる姿が印象的でした。このアンケート結果で興味深いのは、参加された一般の人々は「仏教」に対して否定的なイメージを持っている人は少なく、僧侶側は一般の人々が仏教に対して距離を置いていると考えがちである点です。そのような見地に立つと、この協賛行事は僧侶と一般の方々の双方が互いの距離感を知るという意味で、非常に有意義な場として機能したのではないかと考えられます。
 読売新聞が行っている年間連続調査(*7)では、アンケートで「宗教を信じる」と答えられた方の60%以上が「心の安らぎ・よりどころがほしいから」「教えの内容にひかれたから」と答えられています。
 地域社会や家庭関係の変化により、ご法義の相続や地域での宗教儀礼や真宗的習俗の維持が困難となり、家庭や地域にあった「ご縁」さえもつくることが難しくなっている現状がありながらも、心の安らぎやよりどころを、お寺や僧侶、み教えに求める方は、今も昔も変わりません。
 しかし、「第10回宗勢基本調査報告書」では、「宗門がこれまでに示してきた基本的な方針のなかで特に重要だと思うもの」という質問に対し「子ども・若者へのご縁づくりの推進」が54.5%と最も高くなっているにもかかわらず、「子ども・若者への『み教え』とのご縁をつなぐため活動について」の質問では「何も行っていない」と回答された方は42.4%もいらっしゃいました。

ブースの様子.JPG

ブースの様子

 「子ども・若者ご縁づくり」推進委員会では、「ご縁づくりは教化活動」という立場に立ち、子ども・若者たちが今も将来も浄土真宗の教えに親しみ、聴聞の座に連なる「人」となり、自他ともに心豊かに生きていくことのできる社会の実現に向け、努力する歩みを進めていただくように、これからも各教区や各寺院への支援を続けてまいります。
 「人は、人との関係性の中に意味を見つける」と言われます。まずは私たちが、み教えを喜ばせていただき、僧侶、寺族、門信徒すべてが力を合わせて「ご縁づくり」に取り組んでいきましょう。

子ども・若者ご縁づくり推進室室長
浄土真宗本願寺派副総務
弘中貴之


*1
各地で独自の活動を展開する僧侶たちの活動をプレゼンテーションすることにより、仏教の新たな可能性を宗派内のみならず、仏教界、社会全体に対して広く発信することで各地での新たな活動が起きる呼び水としていくことを目的として、子ども・若者ご縁づくり推進室の企画により2015年11月に開催した大会。
*2
ペルソナとは、仮製品やサービスのユーザー像を仮想の人物として定義したものをいう。実際のユーザーには様々な人が含まれるが、マーケティング手法としてのペルソナでは、その中で最も重要な人物像に焦点を当てることによって、具体的なユーザー像をイメージしやすくなるメリットがある。
*3
市場の細分化のこと。市場を性質ごとに分け、それぞれに対し、最適な戦略・施策を立案・実行すること。
*4
サイレントディスコとは、会場には音楽を流さず来場者がヘッドホンで音楽やDJを聴きながらダンスなどをする催事のこと。隣接地との騒音問題がなく、ワイアレスヘッドホンで自分の好きなDJの音楽を聴くことができる。
*5
情報サイト ヨミドクター(読売新聞)こころ元気塾「気軽にお寺へ...仏教、若い世代に新鮮」(2012年3月)
*6
聖心女子大学 堀江ゼミ共同研究報告書「仏教ブームついて」
*7
読売新聞「年間連続調査・日本人(6) 宗教観」(2008年5月調査)



PDF:第14回  若者を対象とした協賛行事を終えて~ねらいと成果~

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