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宗報

中高生の取り組みについて

宗報(2018年7月号) シリーズ「子ども・若者ご縁づくり」第18回

 

中高生の取り組みについて

◇はじめに

 「中高生」とのご縁づくりは、決して宗門としてなおざりにしてきたわけではなく、それこそ多くの諸先輩方が試行錯誤の中、取り組んできてくださったことであります。しかしながら、部活や習い事などで時間がないという物理的な要素、さらに物事の決定権が親から徐々に本人へと移行し、自分で行く場所を選ぶようになるという内面的な要素も加わり、ご縁を結ぶハードルの高い世代であることは今も昔も変わりません。今回はその中高生に焦点を絞り、ご縁づくりについて考えてみたいと思います。
 

◇ピア・ご縁づくりを模索

 ベネッセ教育総合研究所の調査によると(*)、忙しいと感じている中学生は65%、高校生は70%にもなります。さらに、もっとゆっくり過ごしたいと思っている中高生は85%にものぼります。これは、学校や部活、塾、友だちとの付き合いなどが含まれると考えられますが、とにかく時間がない世代であることがデータからも裏付けられています。この多忙感を極める世代に、いかにご縁づくりができるのでしょうか。同じ調査では、中高生の6割以上が時間を無駄に使っていると感じていることが明らかになっています。多くのことをこなしている中高生ですが、今やっていることに満足はしていないということです。つまり、時間的に余裕のない世代ではありますが、何か満足感を得られるものがあれば、彼らは興味を示してくれるのではと思うのです。満足感が得られる場所とはどのような場所でしょうか? 社会の中で、大人に比べてまだ弱い立場である中高生ですが、その自分が一人の人間として認められ、やりたいことが実現していく、または自分のしていることに意味が見いだせた時、人は満足感を味わえるのではないでしょうか。
 さて、話は少し変わりますが、私が学生だった四半世紀前と現在では、中高生を取り巻く環境は大きく変わりました。インターネットが普及し、さらには多くの十代がスマートフォンを持つ時代です。コミュニケーションの取り方や興味関心など、私たちにはなかなかわからないものがあります。そんな中、今日高校や大学などで「ピア・エデュケーション(Peer Education)」という取り組みがあるそうで、ご縁づくりのヒントとなるのではないかと思い、ここでご紹介させていただきます。同年代の仲間・同輩(=Peer)による教育活動(=Education)のことを「ピア・エデュケーション」とよびますが、その特徴として、若者が自分たちとは異なる年代(大人世代)よりも同年代との関わりを好む傾向があることから、親近感を感じられる若者同士の教育は、その効果が高いと考えられています。WHOをはじめ、国際的レベルでも「思春期の人々の主体的な行動変容を支えるために非常に有効な方法である」と評価されていることからも、我々が学ぶべき点はあると考えます。つまり、若者のことは若者に聞き、直接一緒に関わってもらうということです。
 今まで、どうしても年代の違う我々が企画し運営する中で、中高生世代の興味や関心とのギャップが生まれてしまっていたことはある意味で当然のことだったのかもしれません。そこで、宗派の子ども・若者ご縁づくりでは来年度中高生世代を対象とした行事を開催する予定ですが、同世代を中心とした若者にも深く関わってもらい、広く意見を聞きながら企画・検討を進めていこうと考えています。現代の中高生にとって魅力ある行事にするとともに、さらにその行事の参加者が各教区や地域に帰った後、そこでまたその参加者を中心として新たな動きが生まれるような仕掛け、いわば「ピア・ご縁づくり」が展開できるような仕組みも同時に模索していきたいと思います。
 

◇ホッとできる場所の提供

 私は自坊で中高生の会を年に数回開催させていただいておりますが、そこではお参りをして、法話を聞いてもらい、お弁当をみんなで食べて、そしてお菓子を食べながらトランプをするという、ルーティーンが決まっています。特別なことはほとんどしません。これは最近の話なのですが、子ども会の時からずっとお寺に来てくれていて、大学生からは青年会に入り、今年度から会長を引き受けてくれた方にどんなことを青年会でしてみたいかと尋ねました。すると意外な返事が返ってきたのです。
 「僕はこのお寺に来るとみんなでトランプができるのが楽しくて、その印象がすごく強いので、そのコンセプトは青年会でも残したい」
というものでした。私は何か大きなイベントのような答えが返ってくるかと思いましたが、ずっとお寺に来てくれていた新会長は、一見どこでもできそうなトランプをしたいというのです。それは、お寺は特別な場所じゃない、ホッとする場であり、くつろげる場所なんだということではないでしょうか。そしてそこに居場所があるということなのではないでしょうか。私は、新しい試みを若い世代の方々とともに企画し実施していく動的な方向性と、特別なことではなくそこにホッとできる場所を提供する、居場所をつくり続けていく、といった静的な方向性が両輪となって、この中高生とのご縁づくりが展開されていくべきであると思うのです。

中高生の会.JPG  

◇おわりに

 これまで便宜上一般論として中高生について考えてまいりましたが、一番大切なことは、つながっていくのは個人と個人であるということです。中高生という世代におののくのではなく、過剰に「中学生だから」、「高校生だから」と意識するのでもなく、あなたとつながっていきたい、あなたにご縁をつなげていきたい、あくまでも「私」と「あなた」という一人称と二人称の関係でご縁づくりを深めていくことこそ、どの世代においても重要なのではないでしょうか。
 最初にも書きました通り、この世代のご縁づくりが難しい理由は山ほどあるでしょう。しかしできない理由を挙げていくのではなく、この私が自坊で、また仲間たちと組や教区で何ができるかを考えたいと思います。当然のことながら、これらは決して一朝一夕で結果が得られるものではなく、それこそ砂漠に水を撒くような作業でありましょう。しかし、その砂漠に水を撒き続けてきてくださった諸先輩方がおられて、今があり、そして未来がある。多くの仲間たちと共に、多角的な視点を持ちながらご縁づくりを進めてまいりたいと思います。
 

子ども・若者ご縁づくり推進委員会
若者ご縁づくり部会長
南莊摂


*ベネッセ教育総合研究所 第2回放課後の生活時間調査(2013年)
https://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=4278


PDF:第18回  中高生の取り組みについて

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