宗報

子どもへのご縁づくり(3つのかたちにより「日常生活でのご縁づくりについて」)

宗報(2018年8月号) シリーズ「子ども・若者ご縁づくり」第19回
 

子どもへのご縁づくり
3つのかたちより「日常生活でのご縁づくりについて」

◇はじめに

 「子ども・若者ご縁づくり」の前身は、2007(平成19)年親鸞聖人750回大遠忌法要「宗門長期振興計画」(以下「長計」)の柱の一つ「次代を担う人の育成」の推進項目である青少年教化活動を基に提唱した「全寺院子どものつどい~キッズサンガ~」です。これは「ご縁のある大人が全ての子どもたちと接点を持ち、ともに阿弥陀さまのご縁にあっていこうとする運動」と定義付けして取り組んでいたものでした。
 そして2014(平成26)年の法統継承に合わせ、期限付きの長計での取り組みを常態化し、子ども層に加え青年層をも対象とした青少年教化活動を強化するため、「子ども・若者ご縁づくり推進室」を設置しました。そのとき、「キッズサンガ」の理念を引き継いで、「子ども・若者ご縁づくり基本方針」を策定し、青少年教化活動の呼び方を「子ども・若者ご縁づくり」、対象を0歳から40歳未満と設定し、子ども層へのご縁づくりと共に、若者層へのご縁づくりに取り組んでいく事を明確にしました。
 推進室設置後、それまでの取り組みにより、恵まれたご縁を途絶えることなく若者へも引き継ぎ、また新たなご縁づくり推進のため、若者世代へのご縁づくりについて、種々事業を展開してまいりました。そのため、子どもへのご縁づくりは軽視しているのではないかという声が聞かれるようになりました。
 ご縁づくりは「子ども世代から」であることは論を俟ちません。引き続き子ども・若者ご縁づくり活動に取り組んでもらうよう、宗派として今一度その側面を高く掲げる情報発信が必要と判断して、2017(平成29)年度より「子どもご縁づくり部会」を新たに設置いたしました。この部会は、子ども・若者ご縁づくりスタートアップガイドに掲げている「3つのかたち」の中の「日常生活でのご縁づくり」に焦点を絞って活動を整理し事業を展開しています。このたびはこの日常生活でのご縁づくりとして『ご家庭への働きかけ具体例として』と「ご本尊をお迎え」「食事のことば」「ご法事を子ども・若者たちに合わせる」の3つについてお話ししたいと思います。
 

◇1.「ご本尊をお迎え」

 家庭内で「ご法義の伝承」が難しいという言葉をお聞きします。
 以前、家族が3世代・4世代と一緒に住んでいた家族形態から、今では、親子のみの家庭が増えています。「平成29年版高齢社会白書(全体版)内閣府」の資料によれば、昭和55(1980)年では世帯構造の中で3世代世帯の割合が50.1%と一番多く、全体の半数を占めていましたが、平成27(2015)年では3世代世帯の割合が12.2%まで落ち込んでいます。その他参考として記載しますと、夫婦のみの世帯が31.5%、単独世帯26.3%、親と未婚の子のみの世帯19.8%、その他の世帯10.1%となっています。
 このことから、おじいちゃんおばあちゃんの、仏さまを中心に生活をしている宗教的生活習慣を目の当たりにすることが少なくなり、大人の後姿を見て自然と身についていた「手を合わせお念仏を申す」子どもの姿も減っていることがわかります。つまり「伝承が途切れている」ということでしょう。
 ある組での研修会の折、参加されていた坊守さんと話す機会があり次のようなことを伺いました。「今年の夏、近くの若手僧侶のご協力をいただいて、数十年ぶりに子ども会を開催しました。参加してくれた子どもたちが、お堂に入ったときに驚きました。仏様の前で、正座をすることも、手を合わせることも、お念珠を持つことも、お念仏を称えることも、全く知らない! 一から教えさせてもらいました。そのとき、伝承が途切れているとはこのことなんだと実感しました」。
 これは、直接に子どもや若者にご縁づくりを進めていかなければならない状況であるということです。まずはどのような家族形態の家庭でも手を合わす場所、環境づくりが必要でしょう。
 「手を合わす場所」がないと手を合わせる習慣は身に付きにくいものです。進学や就職で他所に住んでいる若者に、または、若い世代の家庭に「ご本尊」をお迎えすることをお勧めします。
 

◇2.「食事のことば」

 子どもたちが手を合わす初めの一歩として「食事のことば」を奨励し、全世代へのご縁づくりにつながる活動としたいと考えています。
 推進室では、キッズサンガの理念を引き継ぎ、大切にしながら「子ども・若者ご縁づくり」の取り組みを進めてきましたが、学びを深める中で、年代に応じたご縁づくりの重要性もわかってきました。当然のことではありますが、それぞれの年代に応じた伝え方があり、そのことを意識して行事や教材を整えるよう進めています。そして、子ども層だけのご縁づくりにとどまらず、全世代を貫いて、全寺院で、全ご門徒のご家庭で行うことができる活動へ広がることを理想としています。
 数年前に「食事のことば」が改正され、新たな「食事のことば」として出されたとき、ポストカードやリーフレット、最近では京都女子大学生活デザイン研究所食物栄養科の学生たちに協力していただき、新たなポストカードが制作されました。私ども「子どもご縁づくり部会」でも、この「食事のことば」のさらなる普及を期し、その内容を通して仏法にも出遇っていただけるよう、子どもと、保護者の方と対象を分けて、伝えたいメッセージを掲載したリーフレットの作成を進めています。
 

◇3.「ご法事を子ども・若者たちに合わせる」

 ご法事は、子どもや若者にとって「宗教的生活」や「命のつながり」を感じる大きなご縁です。推進室では、ご門徒などに子ども・若者もお参りしやすい日にご法事を勤めることを勧め、子ども・若者が理解できるようにご法話をすることを心がけるよう奨励しています(スタートアップガイドより)。
 私自身、ご法事の際に子どもたちとのご縁を深めるために行っていることがあります。それは、ご法事に参拝している子どもたちを見つけたら、「鏧を打ってもらう」ことです。
 あまり無理強いはしませんが、打ってくれることを了承してくれたうえでお願いします。まずは、名前を聞いて和やかな雰囲気を醸し出し、私の横に座布団を持ってきて座ってもらい、楽しく「鏧を打つ」練習をします。私が指を一本出して胸のところに構えたら「もうすぐ打つよ」の合図なので桴を持って準備をしてもらいます。振り下ろしたときに、鏧を打ちます。ただこれだけなのですが、「鏧を打つ」ということは子どもたちにとってかなり難しい作業のようです。いい音が響くとき、そうでないとき、お父さんやおばあちゃんが、ほめてくれたり、もうちょっと、と声掛けをしてくれたりします。練習も終わり、本番になると子どもたちも少し緊張気味ながら、ほとんどの子どもが最後までやりぬいてくれます。お経が終わると、法話の前に「今日は○○ちゃんと一緒におじいちゃんの3回忌のご法事を勤めさせてもらいました。おじいちゃん、とっても喜んでくれていると思います」と、ひと言添えます。
 この効果は大きく、まず、参拝者のお経を読んでくれる声が大きくなりました。子どもさんやお孫さんが「鏧を打ってくれている」と思ったら、自分たちもきちっとしなければと思うのでしょうか。また、法話のときのみなさんの顔がほころんでいます。さらに、法話と御文章が終わり、最後のあいさつで、「○○ちゃん、今日は本当にありがとうございました」と言うと、周りからその子に対して喝采の声が上がります。
 先日もこんなことがありました。四十九日の法事の折に鏧を打ってもらったお宅の一周忌にお参りに行った時のことです。そこのおばあちゃんが、私にお茶の接待をしてくれながら「あの子、今朝、帰ってから機嫌が悪くて、今日のご法事に鏧を打ってくれないかもしれません」。とさみしそうに言いながら、おばあちゃんが仏間を出ると、すぐにあの子が飛んできて「ぼく、今日も鏧を打つよ」と言ってくれました。
 たった一回の、しかも一年前の「鏧打ち」だったのですが、その子の心に鏧を打った悦びが深く刻まれていたのですね。
 

◇おわりに

 私たち「子どもご縁づくり部会」での取り組みは、子どもを対象とした日常生活でのご縁づくりから始められるよう、みなさまに「いかに環境を整えていただけるか」にかかっていると思います。
 この誌面でご紹介しました、①「進学や就職で他所に住んでいる若者に、または、若い世代の家庭に『ご本尊』をお迎えすることをお勧めすること」、②「子どもたちが手を合わす初めの一歩として『食事のことば』を奨励」、③「ご門徒などに子ども・若者もお参りしやすい日にご法事を勤めることを勧め、子ども・若者が理解できるようにご法話をすることを心がける」という実践を奨励させていただきます。
 初めの一歩として、お寺にご縁のある方への働きかけをまず行い、その方から、ご縁のない方へとみ教えが伝わるよう、周りにいる人との関係性を大事にすることで、お寺が信頼できる居場所となるような環境づくりを目指したいと思います。
 子どもご縁づくり部会は、子どもたちへのご法義の伝承を、具体的にご提案できるよう、検討を進めております。みなさまのお取り組みをご紹介いただければ幸いです。日常の法務の中で子どもと若者を意識したご縁づくりを進めつつ、全世代へのご縁づくりにつながるような活動をご一緒に進めてまいりましょう。

子ども・若者ご縁づくり推進委員会
子どもご縁づくり部会
大原瑞雲


PDF:第19回  子どもへのご縁づくり(3つのかたちにより「日常生活でのご縁づくりについて」)

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