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人生100年 〝優しい地獄〟を生きる|本願寺新報コラム23

本願寺新報 2023(令和5)年2月20日号 掲載
コラム「生きづらさ」思春期 若者をテーマに

人生100年 〝優しい地獄〟を生きる

 以前、政府内に「人生100年時代構想推進室」が設置されていました。亡くなる直前までお元気なら問題ないのですが、老苦や病苦、認知症や介護の現実に向き合う時、「人生100年時代」という言葉を肯定的に使う方々はどれだけ現場をご存じなのだろうか?といぶかしく思っていたところ、近頃この推進室は廃止となりました。
 高齢者にもぎりぎりまで働いてもらって、年金や医療費の支出を少しでも減らしたいという国の目論見もあるのでしょう。実際、「現在20歳代である日本人の半分は100歳を超えるまで長生きするだろう」との推計もあり、あながち的外れな構想でもないかもしれません。
 でも、100歳までこの身を養っていかなければならないとなれば、若い人には喜びよりも、「いつまで働けばいいのだろう」「最期までお金がもつだろうか」という不安の方が大きいことでしょう。高度経済成長期やバブル時代には、正社員として働き、家庭を持つことが世間のスタンダードだったのですが、日本国内の生産年齢人口の減少、世界の中での産業競争に遅れをとったことによって、特に雇用や賃金に不安を抱える今の若者にとっては、以前の普通がハードルの高いものとなっています。
 また価値観も多様になったこともあって、自ら〝お一人さま〟を選ぶ人も増えています。戦争も無く、治安も良く、さまざまなサービスの質も高く、比較的自由ではあるけれども、未来への希望を持ちにくく、自分自身をあてたよりにして長いであろう人生を歩まなければならない孤独で不安な状況。このような日本の若者たちが置かれた状況を、ある方が〝優しい地獄〟と表現しておられましたが、まさにその通りだと思います。
 子ども・若者ご縁づくり推進室は、これまで仏縁のなかった子どもや若者にも阿弥陀さまとのご縁に遇ってもらえるよう、さまざまな取り組みを行っています。思春期・若者支援部会では、子どもや若者の抱える「生きづらさ」にスポットをあて、依存やDVなどの問題、男女それぞれの性の特徴の相互理解、性の多様性の認識、ジェンダー(社会における男性、女性の役割についての価値観)の問題、人と人とのコミュニケーションの重要性、自死の問題、カルトの問題など、これまで仏教界ではあまり取り上げてこられなかったテーマにも、コーディネーター養成研修会を通して取り組んでいます(子ども・若者ご縁づくりホームページで、養成研修会のレポートを閲覧可能)。
 その目的は、〝優しい地獄〟を生きる人たちに、1人でも多く阿弥陀さまに励まされながらの人生を送ってもらいたいからであり、浄土真宗の教えがそれに応えることができると考えているからです。

子ども・若者ご縁づくり推進室マネージャー
藤間 幹夫

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