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診断のメリット・デメリット|本願寺新報コラム45
本願寺新報 2024(令和6)年3月20日号 掲載
コラム「生きづらさ」
診断のメリット・デメリット
スクールカウンセラーをしていると、子どもが医療機関へ行くべきか否かという場面に出くわします。子ども自身が落ち着かない、周りと上手くいかない、身体にも不調が出ているような時に、医療機関の受診を勧めることがあります。
医療機関に行くかどうかという時には、保護者も子どもも、いろいろな葛藤があります。診断を受けることは子どものためになるのか、それとも傷つけることになるだろうか、薬を飲むことの副作用はあるのだろうか...。インターネットでいくら検索しても、判断するのは実に難しいものです。
早期発見、早期療育と言われるように、なるべく早く医療機関に繋がって専門的な支援を受けることが勧められます。ほとんどの場合はその通りで、問題が大きく深刻になる前に、何かしらのアプローチをした方がスムーズに解決することが多いです。医療機関に繋がって診断や治療が始まることで、安心される方はたくさんおられます。それまで親子関係や友人関係が上手くいかないことを「育て方が悪かったのか?」「うちの子が悪いのか?」と悩んでおられたところに、別の理由があることを説明され、解決策を提示されてホッとするのです。
一方、デメリットもあって、診断が逆に親子を傷つけてしまうことがあります。メンタルヘルス上の問題や発達障害という概念への理解不足や偏見、誤解から、不必要な絶望感を抱いてしまうことがあります。また診断を受けることで「何をやっても変わらない」と諦めてしまうこともあります。スティグマといって、一度診断がおりてしまうと、その人の人間性や成長可能性を決めつけてしまうのです。
診断をつけることは、私たちにとって目の前で起こっている苦しみを理解するのに役立ちます。一定数の人が陥りやすいパターンやそこから回復する過程というのは決まっているので、それを知ることでスムーズな解決へと繋げることができます。重要なことは、診断は、固定化したものではなく、そこから良い方向へ変化させていこうという治療や療育とセットになっていることを常に意識しておくことです。
仏教では「諸行無常」と「諸法無我」を説きます。私たちは今、上手くいかずに悩んでいても、状況が変われば、いい方向にいくらでも変化することができます。苦しみの中にある人にとっては、常に変化する可能性があるというのは、とても前向きな教えになります。
諸法無我というのは、自分はあらゆるものと結びついているので、固定化した実体は無いということです。上手くいかず苦しんでいる子どもにとっては、自分を理解してくれる誰かとの出会いが人生を大きく前に進めるかもしれません。スクールカウンセラーとしては、診断というものとの出会いを、傷つけられた体験にするのではなく、そこにあるその人にとっての意味を一緒に探していく機会と考えています。
子ども・若者ご縁づくり推進委員会委員
臨床心理士/公認心理師
武田 正文
浄土真宗本願寺派久喜山高善寺 (kozen.or.jp)