レポート

「セクシャリティの多様性-LGBTsを対象とした全国インターネット調査の結果から-」 日高庸晴さん|第3期 思春期・若者支援コーディネーター養成研修会

「思春期・若者支援コーディネーター養成研修会」は僧侶・寺族を対象として、思春期・若者の生きづらさについて理解を深める研修です。

今回の講師は、宝塚大学看護学部教授の日高庸晴(ひだか やすはる)さんです。HIV(AIDS)の研究に早くから取り組まれ、研究成果も数多く、当事者の調査研究の第一人者でいらっしゃいます。(講義実施日:2020年11月4日)

本記事ではスタッフの藤間 (ふじま) が、受講して印象深かった気づきや学びをレポートします。


社会調査の役割は、「社会的な課題」を可視化すること


「自分のまわりにはLGBTsの人はいない」と感じている人もいます。しかし実際には、各種統計で人口の5~8%、40人教室なら2~3人の当事者がいることがわかっています。当事者はいじめや偏見を恐れ、本当のことを明かしても大丈夫と思った人にしかそのことを言わないので、「自分には言ってもらえなかった」ということなのでしょう。存在が可視化されていないと、多数の人々の目に見えにくい存在は無いものとされ、一方で少数の当事者が生きづらさを抱え、不利益を被るという悪循環が続いてしまいます。
(LGBTs、レズビアン:女性を好きな女性、ゲイ:男性を好きな男性、バイセクシャル:性別に関係なく魅かれる人、トランスジェンダー:出生時の異なる性別で生きる人、s:いずれにもあてはまらない人)


"調査によって数字を示し、社会的な課題を可視化する。研究者としては論文を出すことも大事ですが、研究結果が自治体や国の施策に影響を与え、条例や法律が整備される、このことがより重要です。"


と、日高さんは語ります。3年前、1万5千人のLGBTs当事者を対象とした全国調査で、いじめ被害(ホモ、おかま、おとこおんな、などの言葉によるいじめや、服を脱がされるなどのいじめ)、不登校、自殺念慮、自殺未遂のリスクが、LGBTsではない人と比較して当事者はいずれも高いことがわかっています。別の調査でも、異性愛者男性にくらべ、ゲイとバイセクシャルの男性の自殺未遂リスクは約6倍高く、これらのデータは、LGBTsの方たちが深刻な生きづらさを抱えやすいことを示しています。


当事者でない人々による無理解と偏見


"ある高校での授業後に質問がありました。「嫌なことも生きづらいなと感じることもあって、親も学校も分かってくれなければ、どうすればいいのですか」と言っている友達がいます、と。「質問している本人の気持ちなのかもしれない」と思い、真剣に答えました。
「世の中で良くないことや間違ったことは、残念ながらたくさん起こっています。LGBTsに対する社会の反応も様々です。社会を変えていくために必要なことは、身近で起きている間違ったことや不正義に気づいた人から順に、それぞれ立ち上がって、自分の出来ることを精一杯やっていくことです」"


当事者でない多数の側の人々による無理解や偏見、自分の常識を基にしたあるべき論や非寛容さが、LGBTsの人たちにとって社会をより居づらいものにしています。そんな中、私たちにもできることがあります。調査データを基にした事実を知り、自分の中の情報を常にアップデートしていくこと、寺院での活動や話の中で、LGBTsのことを肯定的に発信していくことなどです。また、アウティング(本人の了解を得ずに、他の人に公にしていない秘密を暴露する行動のこと)の問題や、当事者を傷つけない言葉の配慮等、知っておくべきことがたくさんあります。


国が認めることで、誤解や差別が減らせる


2015年は、LGBTsを取り巻く社会状況のターニングポイントとなった年だったそうです。アメリカでは同性婚が法制化されて婚姻の平等化がはかられ、G7において唯一、国としての同性婚やパートナーシップ制度のない日本でも、東京都の世田谷区と渋谷区でパートナーシップ制度が導入されました。(2020年時点で日本の人口の30%をカバーする自治体で、すでにこの制度があります)また2015年は、文科省から、LGBTsの児童生徒へのきめ細かな対応の実施を求める通知が出されています。国や自治体がLGBTsの人々のことを社会的に認めていくことは、多くの人々の認識を変えていくきっかけとなり、社会全体の誤解や差別を減らしていく力となります。


"このところ、LGBTsをテーマやキャラクターとしたドラマや映画が増えていますよね。この効果って大きいんですよ。当然どこにでもいるという感じで。みんなの知っている俳優が当事者の役をすると、LGBTsが身近な存在になります。「自分は本当は違うんですよ」というようなかっこ悪い言い訳はしない方がいいですよね。"





【編集後記】

良くも悪くも「保守的」な寺の世界ですが、世間の人たちもお寺や仏教に対して、古臭くて不自由なイメージを持っているのではないでしょうか。一切の条件なし、おまかせする心ひとつで平等に救われていく、という浄土真宗の教えが、このようなイメージに覆われて見えにくくなっていることは、非常に残念でもったいないことです。すべての人々に開かれたお寺、LGBTsの方、生きづらさを抱えた方が安心できる場所であることを、私たちは繰り返し発信していく必要があると感じました。。

次回の「思春期・若者支援コーディネーター養成研修会」は、2022年10月からスタートします。オンライン講座を中心にしながら、本願寺にて2回のスクーリングを実施します。現在申込み受付中ですので、ご関心のある方は下記より詳細をご覧ください。一緒に学び合える仲間と出会えることを楽しみにしています。

第4期 思春期・若者支援コーディネーター養成研修会 募集





【講師】日高 庸晴(ひだか やすはる)

現職:宝塚大学看護学部教授、日本思春期学会理事。略歴:京都大学大学院医学研究科で博士号(社会健康医学)取得。カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部エイズ予防研究センター研究員、公益財団法人エイズ予防財団リサーチレジデントなどを経て現職。法務省企画の人権啓発ビデオの監修や、文部科学省が2016年4月に発表した性的指向と性自認に関する教職員向け資料の作成協力、文部科学省幹部職員研修、法務省の国家公務員人権研修、人事院のハラスメント研修などの講師を務め、国や自治体の事業に従事している。



【執筆者】藤間 幹夫(ふじま みきお)

広島県福山市にある、浄土真宗本願寺派・光明寺の住職。ボーイスカウト福山第2団団委員長。大学卒業後、5年間の企業勤務を経て入寺。中央仏教学院、住職課程で学ぶ。浄土真宗本願寺派 子ども若者ご縁づくり推進室 マネージャー。




【研修情報】

思春期・若者支援コーディネーター養成研修会
主催:浄土真宗本願寺派 子ども・若者ご縁づくり推進室「思春期・若者支援部会」
お問い合わせ:goen@hongwanji.or.jp
SNS情報:子ども・若者ご縁づくりFacebook

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