レポート

「思春期のこころと性の課題と学校での性教育」岩室紳也さん|第3期 思春期・若者支援コーディネーター養成研修会

「思春期・若者支援コーディネーター養成研修会」は僧侶・寺族を対象として、思春期・若者の生きづらさについて理解を深める研修です。

今回の講師は、泌尿器科医の岩室紳也(いわむろしんや)さん。「コンドームの達人」として、全国で講演会をされ性教育に携わっておられます。(講義実施日:202123日)

本記事ではスタッフの武田(たけだ)が、受講して一番印象深かった気づきや学びをレポートします。


「正解」を伝えることで傷つく人がいる


私たちはつい思春期の性教育というテーマを前にすると「正解」をいかに子どもたちに伝えていくのかという考えになります。教科書の中にはHIV/AIDSや性行為、避妊についての記載があります。しかし、教科書に書いてある知識を学ぶだけでは不十分です。

正解を探すなかで合理的な判断がしにくくなることとしては、新型コロナウィルスも同じです。三密やマスクについての知識はあるものの、適切に理解し適切に対応できる人は限られます。三密はとにかく「危険」であるのではなく、三密でも感染経路対策をしっかりすれば感染を予防することは可能です。

かつては岩室先生も「ノーセックスかコンドームが大事」と講演をしておられたそうです。正解を押し付けられると、本当に性の問題で悩んでいる子は診療に繋がらなくなってしまいます。

人が正解依存症になってしまうのはマスク警察の構造と似ています。「マスクをしなければならない」と訴えている人は、自分が正しいことを疑わず、誰かを傷つけているかもしれないことを想像することができません。

学習指導要領では対話的な学びが大事であるとされます。対話とは面と向かって声を出して言葉を交わすことです。一方的に大人から正解を押し付ける教育では誰が悪いのかを探しがちになります。そうではなく、子どもたちに肯定的な態度で関わり対話を大切に関わりたいものです。宗教者が公立学校で袈裟衣を着て授業を実施するのは全国的にも非常に珍しいケースです。ましてや、僧侶が性教育を行うなんて聞いたことがありません。


対話と居場所が変化を生み出す


性の課題を特定の個人のリスクと考えると、特定の個人が「危険」であるとされ差別を助長してしまいます。性の課題は誰もが抱えるリスクであり、自分のこととして向き合う必要があります。

数年前、岩室先生ご自身がメタボリックシンドロームの状態にあったそうです。「みなさんならどうアドバイスしますか」と質問されました。お医者さんであることから医学的知識は十分にあります。原因や対応もしっかりと理解しておられます。しかし、なかなかダイエットへ心が向かわなかったそうです。

変化のきっかけは、ある方から「先生、顔が変わりましたね」の一言。誰かと繋がり心に響く言葉があれば人は変わり始めます。

今、思春期の子どもたちには、誰かと関わり、繋がり、支え続ける環境や居場所が不足しています。特別なものが必要なわけではなく、たくさんの居場所をもつことを岩室先生はすすめています。

「もっと家族で一緒にテレビを見よう」ドラマのなかにある恋愛の描写、家族それぞれでの好みの違い、ちょっとした情報から子どもたちは性について少しずつ繰り返し学んでいます。学校では知識を学ぶことができます。得られた知識は家族や友達と対話をする中で本当の生きる力に育っていきます。

岩室先生は、夜の街支援プロジェクトという活動をなさっています。ホストクラブで新型コロナウィルスのクラスターが発生しました。ホストクラブが悪いものと決めつけるのではなく、ていねいに対話を重ねることで信頼関係を築くことができました。彼らの本音を聞くことができたからこそ、ホストクラブに必要な感染予防を行うことが可能になったそうです。

根底にある「生きづらさ」


私たちが見ている問題は氷山の一角なのでしょうか?若者のトラブルの根底には「生きづらさ」があります。自信がない。傷つくのが怖い。周りからどう見られているかが気になる。必要とされたい。認められたい。嫌われたくない。自分の弱さを見せれられない。実際に思春期にある方々からの言葉をご紹介くださりました。


"私にとって、セックスをしたいと思うのは、行為そのものに快楽などの魅力を見出しているためというよりも、「自分が誰かに必要とされている」という自分への需要を確かめ、承認欲求を満たしたいがためのようです。"

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(講義のスライドより)


問題の根底には何があるのでしょうか。「サインを見逃すな」という自殺対策は間違いだらけかになっています。家族は「自分がサインを見逃したからだろうか」と傷つくことになります。

自殺や薬物、リストカットなどの依存の問題に対して「ダメ、絶対」というスローガン正解を押し付けるのではなく、対話の中でより深く繋がっていける工夫が必要になります。


孤独が依存を生み、つながりが居場所になる


「薬物を使うと全員が依存症になるというのは本当でしょうか?」医療用の麻酔をつかって依存症になる人はほとんどいません。あるラットの実験では、檻の中に1匹おり、薬物の入った水と普通の水を入れたところ、依存症になって死んでしまったそうです。しかし、たくさんのラットが楽しく暮らしている檻の中では、同じように薬物入りの水と普通の水を置いておくと、どのラットも普通の水を飲み健康的に過ごしたそうです。

家族や友達などの絆があれば、依存はしません。孤独な人が依存症になってしまいます。いかに社会のなかで孤独な人を少なくするかという工夫が求められます。


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(講義のスライドより)


あらゆる問題の根底には孤立があります。日々の出会いが居場所をつくります。地域の繋がりを強化するという点で、お寺や僧侶に期待していると岩室先生はおっしゃいます。

コロナ禍を契機に、私たちは何が分かっていて分かっていないのかを冷静に理解することがいかに難しいのかがよく分かりました。性教育でもそのほかの問題でも正しく理解し対応することの大切さをご教示くださいました。

岩室先生はコンドームの達人として、分かっているようでもコンドームを正しく使えている人はほとんどいません。YouTubeでも解説なさっているので併せてご覧ください。


WS.png(講義の様子)






次回の「思春期・若者支援コーディネーター養成研修会」は、2022年10月からスタートします。オンライン講座を中心にしながら、本願寺にて2回のスクーリングを実施します。現在申込み受付中ですので、ご関心のある方は下記より詳細をご覧ください。一緒に学び合える仲間と出会えることを楽しみにしています。

第4期 思春期・若者支援コーディネーター養成研修会 募集





【講師】岩室 紳也(いわむろ しんや)

1955年京都府生まれ。ヘルスプロモーション推進センター(オフィスいわむろ)代表、医師(厚木市立病院泌尿器科)。自治医科大学卒業後、神奈川県立青野原診療所、津久井保健所、厚木保健所、県立厚木病院泌尿器科などを経て、2014年より現職。日本泌尿器科学会、日本性感染症学会(代議員)、日本エイズ学会(認定医)、日本公衆衛生学会陸前高田市ノーマライゼーション大使。千葉県浦安市いのちとこころの支援対策協議会会長。思春期のこころと性、健康づくりに関する講演会を全国で年間200回以上おこなっている。

岩室紳也先生公式ホームページ 






【執筆者】武田 正文(たけだ まさふみ)

浄土真宗本願寺派高善寺(島根県邑南町)。臨床心理士、公認心理師、スクールカウンセラー。仏教と心理学からこころの悩みについてYouTube【仏心チャンネル】にて動画を配信。広島大学客員講師。浄土真宗本願寺派 子ども若者ご縁づくり推進室 委員。





【研修情報】

思春期・若者支援コーディネーター養成研修会
主催:浄土真宗本願寺派 子ども・若者ご縁づくり推進室「思春期・若者支援部会」
お問い合わせ:goen@hongwanji.or.jp
SNS情報:子ども・若者ご縁づくりFacebook

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