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レポート

「児童養護施設と社会的養育の現状」堀浄信さん|第3期 思春期・若者支援コーディネーター養成研修会

「思春期・若者支援コーディネーター養成研修会」は僧侶・寺族を対象として、思春期・若者の生きづらさについて理解を深める研修です。

今回の講師は、熊本県水俣市にある浄土真宗本願寺派・西念寺に隣接する社会福祉法人・光明童園の理事長、堀 浄信(ほり じょうしん)さんです。地域の子どもたちや保護者への支援を中心に、児童養護施設、児童発達支援センター、病児・病後児保育など様々なサービスを提供しています。(講義実施日:2021年2月24日)

本記事ではスタッフの霍野 (つるの) が、受講して印象深かった気づきや学びをレポートします。


社会全体で家族を支え、子どもを育む


児童福祉法の第2条には「児童の保護者は児童を心身ともに健やかに育成することについて、第一義的責任を負う」と謳われていますが、堀さんはこの前提について疑問を呈します。

"この法律を見ると、子育ては、家庭・家族が行うことが前提となっています。自助を中心にしてしまっている。一般的なご家庭からすると当たり前のように思われるかもしれませんが、様々な子どもたちやその両親と接してきた私からすると、自助中心の在り方は好ましくないと考えています。

私は、社会全体で家族を支え、子どもを育むことが大切だと思い、光明童園の活動に励んでいます。"

そのように強く提言される背景には、児童虐待の問題があります。令和元年の児童虐待相談件数は193,780件。テレビや新聞などで児童虐待の報道を見ることも少なくありません。堀さんが理事長を務める法人の施設には70名ほどの子どもたちがいますが、その8割は虐待を受けた経験があるそうです。


児童虐待を個人の問題に帰結させてはいけない


児童虐待と聞くと、ついつい「とんでもない親だ」と憤慨してしまう気持ちになることもありますが、実はその家庭も様々な課題を抱えていることが多く、決して個人の問題に帰結できるものではないようです。

ある国際比較調査のなかで「子どもを育てるのは楽しい?」との質問に対し、日本では5人に1人しか子育てを楽しいと思えていないようです。他国と比べてみても、とても低い数字です。


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(講義のスライドより)


その要因の一つに、親(特に母親)の孤立化が挙げられます。母親は子育てに励もうと努力しますが、いざとなると具体的にどうすれば良いか分からないことは多くあります。しかし、相談しようにも相手がいないと、一人で悩みを抱え込みます。母親の精神的ストレスが強まり、子どもへの虐待へとつながってしまいます。

近年、子育ての孤立化が増え続けています。いまはコロナ禍になり、より深刻になっていることが推測されます。


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(講義のスライドより)


このように児童虐待の問題は、決して育児放棄をする親の問題ではなく、社会の問題として考えることが重要です。


ともに育ち、ともに歩む


2010年7月に起きた「大阪二児置き去り死事件」での母親の状況や想いを紹介しながら、堀さんはこのように教えてくれます。


"子どもの幸せを考えるとき、母親が子育てから降りられるということも、また大切。少なくとも、「母親だけが子育ての責任を負わなくていい」ということが当たり前になれば、大勢の子どもたちが幸せになれます。

子どもだけを救っても虐待はなくならない。子どもを救うためには、家族が救われなければなりません。

親も子どもが生まれて初めて親となります。不完全なもの同士、完璧じゃなくて良い。いや、完璧であるはずがありません。ともに育ち、ともに歩む。そんな親子の在り方を応援する社会になっていけるように活動しています。"


堀さんは、講義の最後に、アフリカのことわざを教えてくれました。

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(講義のスライドより)


"
アフリカでは、1人の子どもを育てるには、村中の大人の「知恵」と「愛」と「良い環境」が必要だと言われています。

人類が誕生した700万年前から、社会全体で、みんなで子育てに携わってきた人類の歴史があります。

しかし、現在の日本では、子育ての孤立化が進んでいます。
子どもたちが安心して成長するために、両親だけでなく、周囲の私たち大人が子育てのしやすい優しい環境をつくっていく責任があると感じています。"





【編集後記】

堀さんが講義のなかで再三協調された「社会全体で家族を支え、子どもを育む」ことが胸に残っています。様々な困難を抱える子どもたちや、その親たちと向き合い、ともに過ごしてこられたエピソードに引き込まれました。子どもたちが少しでも安心できる環境をつくられるために奔走されている様子や、堀さんの優しさと、この現状をどうにかしたいという力強さに、心震えるひとときでした。

次回の「思春期・若者支援コーディネーター養成研修会」は、2022年10月からスタートします。オンライン講座を中心にしながら、本願寺にて2回のスクーリングを実施します。現在申込み受付中ですので、ご関心のある方は下記より詳細をご覧ください。一緒に学び合える仲間と出会えることを楽しみにしています。

第4期 思春期・若者支援コーディネーター養成研修会 募集





【講師】堀 浄信(ほり じょうしん)

1971年生まれ。龍谷大文学部仏教学科卒。95年に自坊である浄土真宗本願寺派・西念寺(熊本県水俣市)に隣接する児童養護施設 光明童園 児童指導員に就任。現在は社会福祉法人 光明童園 理事長。水俣市の子ども・子育て会議委員なども務める。





【執筆者】霍野 廣由(つるの こうゆう)

福岡県築上郡にある、浄土真宗本願寺派・覚円寺の副住職。大学在学時に、自死・自殺や終末医療、高齢者福祉の活動に携わる。大学院を修了し、認定NPO法人京都自死・自殺相談センターに就職、現在は事務局長を務める。相愛大学非常勤講師。浄土真宗本願寺派 子ども若者ご縁づくり推進室 委員。





【研修情報】

思春期・若者支援コーディネーター養成研修会
主催:浄土真宗本願寺派 子ども・若者ご縁づくり推進室「思春期・若者支援部会」
お問い合わせ:goen@hongwanji.or.jp
SNS情報:子ども・若者ご縁づくりFacebook

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