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レポート

「思春期の課題とネット社会に生きる子どもたち」宮崎豊久さん|第3期 思春期・若者支援コーディネーター養成研修会

「思春期・若者支援コーディネーター養成研修会」は僧侶・寺族を対象として、思春期・若者の生きづらさについて理解を深める研修です。

今回の講師は、インターネット黎明期からインターネットに関わり、日本へフィルタリングソフトの導入などにも携わられていた宮崎豊久(みやざきとよひさ)さんです。宮崎さんは現在、教育現場などでネットという社会とその付き合い方についての本質を講演されています。(講義実施日:2021年4月)

本記事ではスタッフの藤田 (ふじた) が、簡単ではありますが講義のまとめをレポートします。短いトピックがたくさんある、そんなレポートになっています。


<<本記事の流れ(概要)>>

1)大人の困りごとと子どもの悩み
2)トラブルの構造と、違和感のあるスローガン
3)巻き込まれないように、一歩冷静に
4)インターネット社会の脆弱性とFOMO
5)人間社会の問題と考え方
6)暴力とコミュニケーション
7)社会が求める人材と近代教育
8)ソーシャルキャピタルとインターネットの構造、そして...


1)大人の困りごとと子どもの悩み


講演をするにあたり、大人には「子どもたちがネットやスマホに触れるときに何が心配か?」ということを、子どもには「一体に何に悩んでいるか?」ということを聞くという宮崎さん。

大人からは、「●●をやめさせたい」「なんとかしたい」といった声が寄せられる一方で、子どもからは、ネットに関する講演をするよと伝えていても、「ネットについて」はごく僅か。悩みの多くを占めるのは「勉強」や「友達関係」だそうです。

さらに、

"小学校4年生に聞いてみると、友達関係が増えてくる。勉強と友達で半数だいたいどの学校でもこの割合。中学校にいくと、友達がもっと増えてくる。進学校などでは友達と勉強の比率が変わることはあっても、この2つが多くを占めることは変わらない。 "


ということです。続いて、どんな風にインターネットを使うのかと聞いてみると、結果は動画の閲覧やゲームなど、娯楽的な使い方が徐々に増えていきます。

こうした結果から見えてくることは、「大人の困りごとと子どもの悩みのギャップ」でした。


"最初の大人の視点は、動画とかゲームとかをしているから勉強ができないというもの。でも子どもたちは逆で、勉強がわからない、友達関係で嫌な思いをしているから、ちょっとでも忘れられるゲームをして、その間クールダウンしている。(中略)でも、インターネット、SNSは依存性が高いから、初めは気休めだったけれど、どんどん入っていっちゃう。
しかし、大人たちは気付いていなくて、勉強しなさい、宿題したのと言ってしまう。それが嫌だから、(子どもたちは)SNSや動画を見ているのに、そっちは放置されている。でも、やめさせたいのが大人の視点なんですよね。"


みんな子どもを経て今があるのに、大人になると子どもの気持ちを忘れてしまうということも、『星の王子さま』や『エミール、または教育について』の言葉とともに示してくださいました。



2)トラブルの構造と、違和感のあるスローガン


また、なぜ事件・トラブルが起き続けるのか?ということについて、「トラブルは最近出てきたものではなく、人類が生まれてからずっと起きている」というお言葉とともに4つのことをご紹介いただきました。

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(講義のスライドより)


1つ目については、ネットにかかわらず言えること。2つ目は、たとえ人付き合いが得意だという人であっても、絶対に苦手な人が近所にも学校にもいて、そうした本当に嫌な人とは共存する・共生することができないということ。3つ目は、みんなが会話(対話、ダイアローグ)ではなく、モノローグをしているということ。そして結果として、少数派を排除し続けているという4つ目があり、この構造がトラブルを生み続けているということでした。

さらに、良く見聞きするスローガンに違和感を感じてきたというお話も。



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(講義のスライドより)


"もしこのスローガンが全部可能で実現できていたら、コーヒーが1杯300円とか150円とかでは多分飲めないんですよ。何でこんなに安く飲めるんだろうって
思ったら、絶対的に必ず誰かが犠牲になっている。そういう社会構造になっているなかで、この「つらさ」というものがうまく発散できなくて、最終的にトラブルになっていくというプロセスを良く見てきました。"


何故違和感があったのかを、今日は話していきたい」と、宮崎さんのお話は続きます。


3)巻き込まれないように、一歩冷静に


「皮下注射モデル、魔法の弾丸/特効薬、弾丸言論」といったものがインターネット上で飛び交っているなかで、MITが「どうやって陰謀論に巻き込まれないようにしていくか」ということを示しているとご紹介いただきました。

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(講義のスライドより)

<参考記事>
MIT Technology Review:
How to talk to kids and teens about misinformation
And if you're not an adult, how to spot it for yourself.


一歩引いて冷静になることが、弾丸言論から逃れられる唯一の方法ということです。さらに、


"日本でも起きていて、女性差別はいいんですか、悪いんですか?ひどいですよねという弾丸。(中略)この行動に移っていく過程というのが、社会構造
の脆弱性を作っていっているということを理解してしている人がどのくらいいるのでしょうか。"


とお話いただき、「弾丸」と言うだけあって、衝撃的な言葉は見聞きするだけですぐに心を揺さぶられますが、表面だけを捉えるのではなくその奥にある事柄、例えば発言に至るまでの背景や社会構造などについてまで思いを巡らせているかという投げかけに思わずハッとさせられます。

4)インターネット社会の脆弱性とFOMO


さらに、キャス・サンスティーンの『republic.com』のご紹介とともに、インターネットは見たいものだけを見ていて、見たくないものは見ていないこと(テレビとYoutubeの違い)。フィルターバブルのなかで生活をしていて、異文化交流の破壊が懸念されること。

<参考記事
毎日新聞記事より
SNSの落とし穴 「フィルターバブル」「エコーチェンバー」に注意を


また、FOME(FEAR OF MISSING OUT)という、自分だけが取り残されているのではないかという不安が大人にも子どもにも拡大してきているということをお話いただきました。


5)人間社会の問題と考え方


さて、人間社会の問題とは何か?ということを、インターネットに関係なく考えてみると、2つにまとめることができるそうです。

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(講義のスライドより)


そうした問題に対して、公衆衛生学での2つのアプローチをご紹介いただきました。1つ目が、起きている社会問題(結果)から対策などを考えていく、ハイリスクアプローチというもの。「こういうものは例外なく罰していかなければならない」という捉え方だそうです。


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(講義のスライドより)


そして2つ目が、ポピュレーションアプローチ。「何でこうなったんだろう?」と、社会問題や困りごとをゴールとして考え、そこに至る手前を無くしていく・健全化していくというものです。



繧ケ繧ッ繝ェ繝シ繝ウ繧キ繝ァ繝・ヨ 2022-09-15 7.44.24.png(講義のスライドより)


ポピュレーションアプローチは、「コミュニケーションが良くなったらこういう問題が何件減った」といったことが明確にはならないため、数値化しやすく、メディアに取り上げられやすく、ビジネス化などがしやすい前者がよく用いられていること。そしてまた、私たち自身がその考え方に慣れてしまっているということもお話いただきました。


6)暴力とコミュニケーション


心理学者のフロイトはアインシュタインとの手紙のなかで、人間は生きようとする欲動と、破壊の欲動の両方を持っていて、どちらかを消すことはできないということを示しました。(『人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス』より)


"
例えば「いじめ」は破壊の欲動ですが、いじめている側からすると「あいつおかしいよね」と、自分を正当化し、仲間を増やして、生きようとする欲動でもあります。2つの欲動は本当に複雑に絡み合っています。"


そのため、破壊の欲動をどうコントロールするかということを、社会構造のなかに組み込んでいかないといけないとも、お話いただきました。


"差別反対、暴力反対というときに、どれだけ人間の奥深い問題なのかということを考えることを無くしては、解決に至りません。"


暴力を無くすためには文化が大事であり、土を耕し(Cultivate)人間がいきやすい環境を作らないと暴力は無くならないとフロイトは言っているのではないかとお話は続きます。


"
コミュニケーションには言語コミュニケーションと非言語コミュニケーションがありますが、今のインターネット上では、ほとんどが言語コミュニケーションです。でも、デジタル化できない・しにくい非言語コミュニケーションがないと、対話は成り立ちません。だから、エラーが起きるんです。(中略)文字の情報は多いようで少ないのです。"


繧ケ繧ッ繝ェ繝シ繝ウ繧キ繝ァ繝・ヨ 2022-09-15 7.46.06.png(講義のスライドより)


"コミュニケーションの意味はわかちあうこと、共有すること
です。「どう相手を説得するか」ではないのです。そしてコミュニケーションに必要なことは、モノローグ(おしつけ・ひとりごと)ではなく、ダイアローグ(対話)。これができていれば、そもそもトラブルは起きていないよねということを、思春期の様々な問題に関わるなかでずっと思ってきました。

「わかりあう」は良く使われます。これは限定されたグループでなら使うことができるでしょう。しかし「わかちあう」、「へぇ、そうなんだ、そういう考えもあるのね」ということができれば、排除が起きないはずです。しかし実際は、こっちが正しくてあっちが正しくないとなるから排除が起きます。コミュニケーションではないですよね。"


そしてまた、スペインの哲学者であるオルテガ・イ ガセットはこのように言っているそうです。



繧ケ繧ッ繝ェ繝シ繝ウ繧キ繝ァ繝・ヨ 2022-09-15 7.42.28.png(講義のスライドより)


7)社会が求める人材と近代教育


近代化により農村部から都市部に人々が移り住むと、水や小麦を買うためには働いてお金を得ないといけなくなった。工場で働くために労働者は、長時間じっと働けて、間違いがなくみんなと同じことができる必要があり、そのために近代教育が必要になったとお話いただきました。


"
大量の人々がわかりやすい模型、操作しやすい模型が社会に求められて、うまく乗っかる人は、そこそこ楽しい生活ができるけれど、ちょっとでも疑問を持った人はみんなマイノリティになるのです。(中略)
今日一番言いたかったことの1つは、大衆とはどういう人なのかということ。
同一であると感じてかえっていい気持ちになるということは、逆に言えば、自分と同じじゃないと気持ち悪い」となるということです。"


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(講義のスライドより)



8)ソーシャルキャピタルとインターネットの構造、そして...


パットマムは小さな組織、同じ思考や考え方の人と繋がるBondingと、違う組織と繋がるBridgeingが、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)において大事であると示しているが、それはインターネットでも同じであるとこと、しかし、そうした使われ方はされていないという現状をお話いただきました。  


<参考記事>
1. Be serious about your spheres of influence - even small ones.



また、ソーシャルキャピタルの三要素とともに、「違う考えを受け入れて初めて信頼関係ができる」ということもお話しくださいました。



<参考記事>
Building Your Social Capital



ここで、「さて、このスライドに戻りますが、皆さんもちょっと違和感が出てきましたか?」というお言葉とともに、はじめのスライドに戻ります。


繧ケ繧ッ繝ェ繝シ繝ウ繧キ繝ァ繝・ヨ 2022-09-15 7.45.17.png(講義のスライドより)


"何故違和感を感じたのかと言えば、排除がなければ、全てが自分の居場所になります。居場所はつくるものではないんです。そして、そもそもが多様性ですし、暴力も無くすことはできないからどうコントロールするのかということ。差別もしてはいけないけれど、その背景は何なのかということです。"




繧ケ繧ッ繝ェ繝シ繝ウ繧キ繝ァ繝・ヨ 2022-09-15 7.47.10.png(講義のスライドより)


「わかりにくくて、効率的で即効性があるとも思えなくて、答えがない。そんなお話だったかもしれませんが」という、最初に示された、しかし、全体を貫くお言葉をいただいて講義は終了となりました。





【編集後記】

1時間という本当に限られた時間でしたが、とてもたくさんのトピックをお話いただきました。そして、そのひとつひとつはバラバラなようでいて、実は全て繋がっているということが、とても印象的なご講義でもありました。長いレポートとなっていますが、文量の関係でまとめきれなかったところが多々あります。気になるところを調べていただいたり、宮崎さんの本や記事、講演などをチェックしていただいたりと、何らかの形で補っていただけたらと思います。簡単に答え・効果が出ることばかりを求めない、その背景に思いを巡らせる、考えつづける。...そうしたことを知らず知らずのうちに失ってしまう危うさを教えていただいたとともに、得られた様々な気付きを大切にしていきたいと思いました。

次回の「思春期・若者支援コーディネーター養成研修会」は、2022年10月からスタートします。オンライン講座を中心にしながら、本願寺にて2回のスクーリングを実施します。現在申込み受付中ですので、ご関心のある方は下記より詳細をご覧ください。一緒に学び合える仲間と出会えることを楽しみにしています。

第4期 思春期・若者支援コーディネーター養成研修会 募集





【講師】宮崎 豊久(みやざき とよひさ)

「インターネットポリシースペシャリスト」
横浜市学校課題解決支援事業専門家、学校ネットトラブル相談窓口専門家として『青少年問題課題解決』の調査・研究や啓発活動を行っている。

平成 13 年から米国シリコンバレーのフィルタリング企業プロジェクトマネージャー、ヤフー株式会社フィルタリングデータ部門責任者、財団法人インターネット協会主任研究員を歴任。
また、警察庁外郭団体インターネット・ホットラインセンターのシニアアナリストとして国際刑事警察機構等、海外機関の国際会議等で、日本のインターネット犯罪の状況解説などに参加。





【執筆者】藤田 圭子(ふじた けいこ)

横浜在住の浄土真宗本願寺派僧侶。大学では生物学を専攻していたが、その後真宗学を学ぶために実践真宗学研究科へ進学。現在は同世代の僧侶とともに、ワクワクを生み出す様々な活動に挑戦中。一般社団法人日本思春期学会代議員、及び性教育認定講師。浄土真宗本願寺派子ども若者ご縁づくり推進室委員。





【研修情報】

思春期・若者支援コーディネーター養成研修会
主催:浄土真宗本願寺派 子ども・若者ご縁づくり推進室「思春期・若者支援部会」
お問い合わせ:goen@hongwanji.or.jp
SNS情報:子ども・若者ご縁づくりFacebook

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