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レポート

「性風俗産業とセックスワーカー」今賀はるさん|第3期 思春期・若者支援コーディネーター養成研修会

「思春期・若者支援コーディネーター養成研修会」は僧侶・寺族を対象として、思春期・若者の生きづらさについて理解を深める研修です。

今回の講師は、AV女優兼、現役風俗キャストである今賀はるさんです。今賀さんは、セックスアドバイザーとしてYouTubeでの発信や講演活動、ご自身で数々のイベントを企画するなど、性の問題や現状について啓発活動に取り組まれています。(講義実施日:2021年4月28日)

本記事ではスタッフの霍野 (つるの) が、受講して印象深かった気づきや学びをレポートします。


お茶の研究に励む大学院生が性風俗で働くようになったワケ


今賀さんが性風俗産業に関わるきっかけは何だったのでしょうか。

"学生時代は食品や栄養について学んでいました。こう見えて管理栄養士の資格も持っています。大学院に進学してお茶に含まれるカテキンの研究をしていました。

大学院で研究に励みながら就職活動をしていました。希望は東京の企業でした。大学が地方だったので、東京で就活をするのはお金がかかります。面接に受かっていくと上京するのも交通費や宿泊費もかかるし、身だしなみにも気を使います。だけど、研究室も忙しくバイトする時間もない。

そんななかで、大きな不安もありましたが、風俗で働いてお金を稼ぐしかない!と思ったのが、この業界でお仕事を始めたきっかけです。それまで性風俗産業への関心は全くありませんでした。"


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(講義のスライドより)


就活にかかるお金を稼ぐことが目的で始められた性風俗でのお仕事ですが、現在は様々なメディアを駆使して広く活動されています。発信に込める想いを教えてくださいました。


"最初はお金が目的だったんですが、仕事のなかで出会う経営者の方やお客さんとお話するなかで色々と教えてもらうことも多く、性にまつわる面白みや奥深さも感じるようになってきました。

自分が経験したことや学んだことを通して「性風俗の業界をもっと働きやすい環境にしたい!」「だれもが安全なセックスを楽しめるようになってほしい!」と思い、セックスアドバイザーとしてYouTubeでの発信や講演、イベントを企画しています。"


性の多様性を探求するなかで見えてきた世界


続いて今賀さんは価値観の多様性について言及されます。


"
性的な営みは夫婦や恋人のように愛のある関係のなかだけですることを大切にされている方もいます。あるいは、愛なんて関係なく子どもをつくるために行う人もいるでしょう。もっと自由に楽しむ方もいます。逆に、興味ないです、性的接触を拒絶する方もいます。

私たちは色んな価値観を持って生きています。価値観は人それぞれで、正解や間違いがあるものじゃないと理解しています。

ですが性の話になると、多くの人が揺るがぬ王道、正解があるように言われることに私は違和感をもちます。"


111.png(講義のスライドより)


確かに性の価値観については、社会的に望ましいと思われる「こうあるべき」とのバイアスが強いようにも感じます。そのように画一的な倫理感にもとづいた同調圧力が強いなかで、性風俗産業ならではの偏見が生じることも想像されます。


"
性的な営みのような秘事をビジネスにすることに違和感をもつ気持ちは分かります。人前で脱いでお金稼いでけしからん。私もこの業界でお仕事を始めるまでは、同じように思っていた一人です。

私が師匠として仰ぐ方から「性」と「エロ」をわけて考えることが大切だと教わりました。

私は「性」を命をつなぐ営み、人の体そのものであると考えています。対して「エロ」は性的興奮をかりたてるために作られたもの。いわば、フィクションです。

私たちセックスワーカーはエロを提供しています。エロというファンタジーの世界を提供するテーマパークとして遊んでもらっている感覚です。"



222.png(講義のスライドより)



"セックスワーカーは「体を売っている」とよく避難されますが、それは間違いです。私たちは体を売っているのではなく、「エロ」というサービスを売っています。"



社会的な偏見を浴びつづける人の支えになり得る場所


偏見差別を受けやすい性風俗産業。働くなかで精神的に病んだ場合、セーフティーネットが少なく孤立してしまうケースも少なくないようです。


"
服を脱げば稼げるというイメージがあるかもしれませんが、決してそんな簡単な職業ではありません。

セックスワーカーは恥じらいさえ捨てれば誰でも簡単に稼げるセーフティーネットだと思われがちですが、実際は弱肉強食のビジネスです。たくさん稼げる人もいれば、全然稼げない人もいます。楽しく働いてる人もいれば、精神的な病を抱えながら働いてる人もいます。

精神的に病んでしまうなど困難に陥ったときに、セックスワーカーは個人事業主ですので会社やお店は助けてくれません。一般企業の正規雇用者のような福利厚生は全くありません。

さらに、このような業界で働いてることによって差別されることも多いです。メンタルを病んで精神科系のクリニックにいっても「そんな仕事をしてるからだ」と怒られ、怖くて病院に行けなくなった人を何人も知っています。

多くのセックスワーカーが周囲には内緒でこっそり仕事しています。だから、相談できる相手も居ない。そのように追い込まれていくと「私なんてこの世にいちゃいけない存在」「私は生きる価値のない人間なんだ」と自分を責め、孤独になっている人も多いです。"


今回は今賀さんに性風俗産業でお仕事をする当事者として話題提供をいただきました。よくよく考えてみると、セックスワーカーに限らず偏見差別を受けやすい職業やパーソナリティもあるのではないかと思います。


"セックスワーカーだからといって差別されない、一人の人間として尊重して話を聴いてくれる場所がとっても大切だと痛感しています。その相談相手がお坊さんであったり、お寺であれば良いなと思います。

職業に限らず自身の生い立ちやバックボーンを差別されることなく安心して相談できる場所が大切なのではないでしょうか。そのような窓口や拠り所が増えることが重要です。"


3333.png(講義のスライドより)

"今は困った時にお坊さんに相談にいこうと思い立つ人は少ないかもしれませんが、それぞれの悩みをそのままに受け止めてくれるお寺やお坊さんが増えれば良いなと思います。人生に悩んだ、モヤモヤした時はお寺に行ってお坊さんに話を聞いてもらうとの認識が高まっていけば良いなと感じます。"





【編集後記】

そもそも性風俗産業とは何なのかという概論から始まり、そこに生じている問題や偏見・差別について、当事者の視点でレクチャーいただきました。お話を聴くなかで、私は何となく形成されてきた画一的な認識に凝り固まっていることに気づかせてもらいました。翻って考えてみると、それは性風俗に限らず日常生活のなかでも様々なバイアスをもって物事を解釈していることにもハッとさせられます。自分が持つ偏った認識に気づくためにも、当事者や現場の声に耳を傾ける重要さを感じます。

研修会の様子や次回研修会のご案内などSNSに掲載しておりますので、ご関心のある方はSNSを是非フォローください。

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【講師】今賀 はる(いまが はる)

静岡県出身。大学院ではお茶の研究に精を出す。東京で就職先を探していたため、企業説明会や面接のたびに上京。交通費捻出のために性風俗で働き始める。一般企業を退職したのち、様々な風俗業態でのアルバイトを経験。2016年に始めた「手コキ研究会」のイベント主催をきっかけに、一気に知名度がアップする。風俗関係のイベントのゲストとして、また性感染症関連の学会などにも出席し、活動の場を広げる。



【執筆者】霍野 廣由(つるの こうゆう)

福岡県築上郡にある、浄土真宗本願寺派・覚円寺の副住職。大学在学時に、自死・自殺や終末医療、高齢者福祉の活動に携わる。大学院を修了し、認定NPO法人京都自死・自殺相談センターに就職、現在は事務局長を務める。相愛大学非常勤講師。浄土真宗本願寺派 子ども若者ご縁づくり推進室 委員。





【研修情報】

思春期・若者支援コーディネーター養成研修会
主催:浄土真宗本願寺派 子ども・若者ご縁づくり推進室「思春期・若者支援部会」
お問い合わせ:goen@hongwanji.or.jp
SNS情報:子ども・若者ご縁づくりFacebook

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