インタビュー

「人の輪を拡げるお手伝いをしたい」。両徳寺住職・舟川さんの寺院伴走支援に込める想い|寺院伴走支援レポート01

2016 (平成28) 年度より、仏教・浄土真宗と若者との新しい関係づくりをめざし、子ども・若者ご縁づくり推進室や教区共催で実施してまいりました現代版寺子屋「スクール・ナーランダ」について、今年度は新たな試みとして、一般寺院で開催可能なプログラムを検討し、実施いたします。

これまでの「スクール・ナーランダ」の様子はこちら

本事業の実施にあたっては、これまで「スクール・ナーランダ」で培ったノウハウを活かしつつ、お寺の魅力を最大限に引き出すため、日々お寺の活性化に取り組む当室「若者ご縁づくり部会」の委員が支援を行い、ご住職様をはじめ、寺族・門信徒の皆様と共に企画運営を行います。

今回は「若者ご縁づくり部会」の部会長であり、伴走支援のメンバーでもある、北豊教区・両徳寺ご住職 舟川 智也(ふなかわ ともや)さんに、本事業の趣旨や、伴走をする上で大切にしたいことをお聞きしました。

舟川 智也(北豊教区・京仲組・両徳寺)
両徳寺住職。本願寺派布教使。布教使として活動する傍ら、YouTubeやVoicyなどのWebメディアを通して、仏教とのご縁を広め、深める活動を行っている。また、自坊においては地域に開かれたイベント「ゆくはしほおずき夜市」を主催し、地域の若者の交流・活性化の場を作っている。

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若者と僧侶のごちゃ混ぜチームから生まれる人とアイデアの拡がり

ー舟川さんは「スクール・ナーランダ」に何回参加されたのでしょうか?

私は、京都と佐賀の開催に参加しました。京都のときは企画準備の段階から関わることができました。当日は司会進行も務めました。佐賀開催時は、教区の方々を中心に企画運営をしていただいたので、私たちは進捗の確認と、当日スタッフでのお手伝いという感じでした。

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「スクール・ナーランダ Vol.4」で進行をする舟川さん


ー参加してどんな気づきや発見がありましたか?

特に勉強になったのが、「チーム・ナーランダ」の方々との関わりです。「チーム・ナーランダ」とは、共に企画運営を行う10代~20代のサポートスタッフです。「スクール・ナーランダ」の企画を始めるにあたって、開催地は宗派で決めますが、そのあとに「チーム・ナーランダ」を募集します。そうすることで、開催地周辺の若者と、僧侶がごちゃ混ぜになった企画運営チームを結成します。


ー若者と一緒に企画をつくりあげていくのが「スクール・ナーランダ」の一つの特徴ですね。

私は、初動のタイミングから僧侶だけでなく、周辺の若者たちと一緒になって企画していく姿にハッとさせられました。というのも、お寺の行事を振り返ってみると、どうしても企画は僧侶や寺族が中心で、ある程度詰めた内容をもとにご門徒さんなど関係者の方々に協力してもらう形が多いからです。


ーなるほど。確かに企画準備をしっかりしたうえで、当日のお手伝いをお願いすることが多いように思います。

その点、「チーム・ナーランダ」は、まだ何も決まっていない段階から若者と僧侶とが、あーでもないこーでもない、それいいね!、こっちはどう!と意見を交わしながら作り上げていく。若者も決してやらされているわけじゃなく、僧侶と一緒によりよいものを企画していこうとする想いやエネルギーを感じます。そうやってお寺に関わる「人の輪」を広げていく様子にとても感銘を受けました。

2.png「チーム・ナーランダ」と僧侶で対話議論している様子


ーそのような気づきは、ご自坊の活動にも活かされているのでしょうか?

私のお寺では「ほおずき夜市」を開催しています。いま振り返ってみると、この企画の経緯も「チーム・ナーランダ」と同じです。


ーもともと「チーム・ナーランダ」のような体制をつくることができていた、ということでしょうか。

私が、お寺と関係ない地元の友人に「何かお寺でイベントをやりたいから相談にのってよ」と声をかけました。2人で話しながら、もっと色んな発想があった方が良さそうということで、2回目の会議ではお互いに友達を誘って4人で企画しました。次の会議のときは、新たに誘った友達がまた友達を連れてきて6人で話し合いました。以前はこの地域でこんなことがあったよねとか、お寺でやるならこういうことは大切だよねとか、それならこんな人いるよって、企画のコンセプトが固まっていくと同時に、アイデアや「人の輪」が拡がっていく。このプロセスがとても楽しかったです。


ーまさに「チーム・ナーランダ」と同じ形ですね。

企画をする最初のタイミングで、私が知っている人たちだけで会議をしていたら、間違いなくこんなに「人の輪」は拡がっていませんでした。いまでは20人ぐらいで運営していますが、私が元々知っていたのは4人ぐらいです。あとは関係者の誰かが連れてきてくれた人たちです。


ーご縁が拡がっていく様子がすごいですね。

いま「ほおずき夜市」は知らない人と出会う場所になっています。会議を開くたびに私の知らない人が増えていく。あそこにいけば面白い人に会える、そんな風に思ってもらえる場に育っています。

3.png4.pngゆくはしほおずき夜市の様子



画一的な正攻法なんて存在しないからこそ


ーこれまで宗派や教区が主催する取り組みでしたが、今回は一般寺院での開催です。なぜ一般寺院で実施することになったのでしょうか?

私自身が宗派の活動に関わるようになり、宗派は何のために存在しているのか?と考えるようになりました。私の答えとしては、全国にある一般寺院の活動のサポートが、宗派の大きな役割だろうと考えています。


ー仏教婦人会や仏教壮年会、仏教青年会、ビハーラ活動など、宗派が各地域の活動を管理運営しているように思います。

例えば、この「スクール・ナーランダ」も、宗派が企画して人が集まりメディアに取り上げられて、本願寺が賑わいさえすれば良いのか、というとそういうことではない。若者とのご縁づくりのアプローチを探る手立てとして、宗派が新しいことにトライし、そのノウハウや実績を一般寺院に共有していく。そんな流れが必要なのだと考えるようになりました。


ー宗派には新しい伝道の方法論を試してみるトライアルの機能もあるということですね。その方法論を一般寺院に還元していく、と。

とはいえ、一般寺院といえども、各寺院の地域環境は違いますし、ご門徒との距離感や、収入規模も違う。なので、画一的なモデルケースを提示するのは不可能です。


ーそうですね、これをやれば成功しますよ!というような正攻法を示せるようなマニュアルはないように思います。

しかし、新しいチャレンジの過程や、成功や失敗した部分を可視化することで、それぞれのお寺が参考にできる部分もあると思います。


ーイベント内容だけでなく、その過程に重きを置いている感じでしょうか。

これまで「スクール・ナーランダ」でやっていたような著名なゲストを迎えて開催するのは、経費面からも一般寺院では難しいと思います。

イベント内容や予算も地方の一般寺院だからこそできる方法を、今回の寺院伴走支援事業で一緒に編み出していければと考えています。


ーイベント当日の様子をレポートして成果報告をするような形ではなく、その過程やプロセスを含めて一つの事例を作り上げていけたら良いですね。

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イベントごとは種まきだけど、種がないと実は育たない

ー「スクール・ナーランダ」は、2019年度より教区開催を実施してきました。各教区教務所の担当者や、各教区の子ども・若者ご縁づくり推進委員が、「チーム・ナーランダ」と横並びになって企画運営を行いましたが、どのような手ごたえを感じましたか?

地域の若者と、地域で活躍する僧侶が一緒に企画していく活発な様子をみると、「スクール・ナーランダ」が一つのきっかけとなり、様々な取り組みが起こる可能性を感じました。

ただ一方で、懸念もあります。


ーその懸念点、気になります。

教区は年数が経つと担当者も変わりますし、各教区の子ども・若者ご縁づくり推進委員も変わっていきます。「スクール・ナーランダ」を企画運営するなかで生まれた信頼関係や人間関係を保ち続けるのは難しい面もあるなと感じます。

その点、一般寺院だと、30年ほどは住職は変わりませんし、お寺の家族はそこに居続けます。何年経ってもあのお寺には知ってる人がいるというのは、集まってくるメンバーにも安心感があると思います。継続性を考えると一般寺院の方がやり易い面もあるのではないかなと考えています。


ー以前「お寺はDoingよりもBeingが大切なことを忘れないで欲しい」と教えてもらったことを思い出しました。

私も「ほおずき夜市」を続けるなかで良い発見がありました。「ほおずき夜市」を実施し1日に数百人が参加してくれますが、それがそのままお寺の活動につながるわけではありません。ご法座のお参りが増えるわけでも、ましてや、ご門徒の数が増えるわけでもありません。

しかし、企画運営に携わってくれたスタッフの人たちに「お寺の行事で一番大切にしている御正忌報恩講にお参りに来てください」と誘うと、半分以上の人が来てくれました。彼ら彼女たちは仏教に興味がないわけではない。仏教の話を聞いてみたいというニーズは潜在的にはあるのだと思います。


ー信頼関係構築の一つの場になっているのですね。

お寺は企業と違って、半年や一年で結果・成果を出せという世界ではありません。ちょっとしたお寺とのご縁をつくったり、人間関係・信頼関係を育むなかで、何かのきっかけでどっぷりと仏法に触れる機会を創れるのだなと感じています。そのための種まきをしている感覚です。


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そこにあり続けるストーリーが武器になる


ー舟川さんも伴走メンバーのお一人ですが、どのような伴走をイメージされているでしょうか?

お寺にとって一番の財産は「人」です。今回の伴走支援事業の一番のポイントは「人の輪を拡げていく」ことにあると思っています。

「拡げる」というと、たくさん集まったから成功、少ないから失敗だという認識を持ってしまいがちですが、イベント参加者の数の問題じゃありません。


ーイベントの参加者数ではない評価軸があるということですね。

お寺の取り組みに共感して、一緒に企画してみようと、自分のできる範囲で手伝ってみようと思ってくれる人が1人でも2人でも生まれてくると大成功だと思っています。その1人2人の存在から徐々に輪が拡がっていく。お寺の取り組みを一緒にやってくれる人を1人見つける旅に出来れば良いなと思っています。


ーその1人を見つけるのが、今回の伴走支援事業の大きな役割だということでしょうか?

今回私たち伴走メンバーは全国各地からサポートさせていただきますが、私たちみたいに遠くの人、よそ者ばかりがいても役に立たない。ローカルなその地域の場で出会うことに意味があると思います。

これも「ほおずき夜市」を通して気づいたことですが、私たちお寺の者は、お寺があるその場所に居続けないといけない。もし違う地域に出ていきたいと思っても、その場所を捨てることはできません。


ーお寺の者として同じように感じた経験はあります。

だけど、地域には同じように、その土地で生き続けることに覚悟をもって暮らしている人がいることを知りました。この仕事を始めたからには、あるいは、ここで家族を作り家を買ったから、骨をうずめる場所だと覚悟を持っている人は大勢いました。

都会は仕事も住居も流動的ですが、地方は仕事も住居も固定的です。だからこそ、住み続ける場所がより楽しくなった方が良いと感じて、お寺の取り組みに共感してくれる人がいます。


ーどうせ住み続けるなら楽しく愉快な居心地の良い場所にしたいですものね。

イベントごとを実施する自分にとっての財産は一緒に企画運営をしてくれる「人の輪」です。イベント当日は、おまけのお楽しみみたいなもの。おまけのために長い時間を費やすことになりますが、それはそれで楽しいので止められないんですよね。

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ー舟川さん、ありがとうございました。伴走支援事業にご関心をお持ちいただいた方は、下記の募集ページをご覧ください。たくさんのご応募をお待ちしています。


執筆者:若者ご縁づくり部会委員 霍野廣由


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