インタビュー
住職・坊守に聞く企画への本音|寺院伴走支援レポート09
住職・坊守に聞く企画への本音
「不安100%が、達成感100%」に至るまでの
葛藤と決意
浄土真宗本願寺派 子ども・若者ご縁づくり推進室(以下、ご縁づくり推進室)仏教・浄土真宗と若者との新しい関係づくりをめざし、現代版寺子屋「スクール・ナーランダ」をこれまで教区共催で開催してまいりました。2023年度は、このノウハウを活かし一般寺院と若者とのご縁づくりをサポートする新たな試みとして"寺院伴走支援事業" 現代版寺子屋「スクール・ナーランダ」一般寺院開催を行いました。
約半年をかけ、大阪府堺市・正覚寺とご縁づくり推進室の委員たちが企画伴走、協力しながら、ゼロから正覚寺らしく、堺の地に息づくお寺のイベントを考えてきました。
そして、2024年2月17日 (土) 、大阪府堺市にある正覚寺にて【アジア×堺×正覚寺 CROSS BORDER】イベントを開催。当日は700人を超える来場者があり大盛況となりました。イベントの詳細はこちら
「【アジア×堺×正覚寺 CROSS BORDER】イベントレポート」そこに至る過程には葛藤や不安、ご門徒さんや地域の方々の助言、広報告知のために走り回る姿など、様々な局面がありました。
開催から1ヶ月が過ぎ振り返りも兼ねて、住職・坊守、門徒総代、そして副住職・若坊守の3つのグループに分かれて、イベントを開催するまでの経緯、やってきたこと、課題、今後の展望など、率直な想いや考えを伺いました。イベントを開催して終わりではなく、全国のお寺でもこれから先のお寺のあり方を考えるためのヒントとして、正覚寺のみなさんにインタビューにご協力いただきました。
今回は住職・坊守に伺った話をご紹介します。お話を通して見えてきたのは、想像もできないことへの不安や恐れと、それでもお寺の未来のために一石を投じようとする大きな決意でした。
正覚寺 住職・橘堂正弘さん(左)と坊守・橘堂祐子さん(右)
想像できないことへの恐れ
-寺院伴走支援事業には若坊守の麻美さんがご応募くださいました。正覚寺さんで、若者とのご縁づくり事業を実施すると聞いたとき、どんな思いをもたれましたか?
住職:
これまでお寺で子ども向けの取り組みは何度か実施した経験があります。けれど、20-40代の若者世代がお寺に来るなんて全く想像できませんでした。若者向けの取り組みなんて絶対に失敗すると思ったのが正直な思いです。
坊守:
私も全く一緒です。若者向けの取り組みといわれても、何をして良いのか、何をしたいのか、全てが未知でした。
住職:
お寺として何をやって良いのか分からないのに若坊守を中心に企画だけは進んでいく。私たちは置いてけぼりに感じた時がありました。
坊守:
企画が練り上がっていって、マルシェをやるとか、音楽ライブをやるとか決まっていくけど、本当にそんなことできるのかなと本番当日まで心配でした。だって、リハーサルもないわけでしょう。
それこそ報恩講とかお寺の法要なら準備しなければならないものも分かるし、進め方も想像できるから安心。だけど、今回のイベントは全てが未知のことで心配で心配でたまりませんでした。自分が想像できないことに取り組むのは怖いことでもありました。
住職:
堺市から後援をもらって学校にもチラシを配布してどんどん情報が拡がっていくと、余計失敗できないと心配も膨らんでいきました。
坊守:
正覚寺は車では入りにくい立地なので当日車で来た人がいたらどうしようとか、自転車の駐輪マナーが悪くて地域の人の迷惑になったらどうしようとか不安だらけでしたよ。
ーやったことがないこと、未知のことをやるのは不安になりますよね。実際にやってみてどうでしたか?
住職:
想像をはるかに超えることになって驚いています。
坊守:
やる前は不安100%でしたが、やってみると達成感100%です。
正覚寺なればこそ
ーどんなところが想像以上でしたか?
住職:
正覚寺には日本のお寺には 珍しくお釈迦さまのご遺骨、いわゆる仏舎利があります。それは、私が長年続けたスリランカ仏教の研究が、現地スリランカ仏教界より評価され、名誉称号をいただいた時に奉迎したものです。その仏舎利の意味や、奉迎した経緯を説明する時間を作りました。 そんなマニアックな話に人は興味をもたないだろうなと思いながらでしたが、いざ始まってみると本堂いっぱいに集まっていただきました。皆さんが真剣に耳を傾けてくれる姿がとても嬉しかったです。
住職と副住職による仏舎利の意義や、正覚寺に奉迎された経緯を説明
坊守:
マルシェも大賑わい、仏舎利の説明や、シルクロードをテーマにしたトークセッションも人がいっぱい入って、ライブも大人気。大成功だったと思いますが、特に私が印象深かったのは茶の湯体験です。堺は千利休のふるさとです。この土地ならではの文化に若い人に触れて欲しいと思って、茶の湯体験を実施しました。
坊守:
お昼が近づくに連れてマルシェに人が集まるようになってくると、茶の湯体験も賑わってきました。そうすると、若いお母さんが3歳の子どもを連れて参加してくれたり、小学生の子たちも体験してくれました。
ーそれだけ多くの人をもてなすのは大変だったと思います。以前からお寺で茶の湯の催しをなされていたんですか?
坊守:
私はお世話になっている先生のお稽古に通っていましたけど、お寺でやったことはありませんでした。
住職:
スタッフの方々は何度もお寺にきて接待のリハーサルをしてくれましたよ。
坊守:
2週間ぐらい前からリハーサルを始めました。行程の確認や、お運びの練習、お道具の並べ方など、みんなで知恵を出し合ってしっかり準備をしました。そのおかげがあってこそスムーズにいったのだと思います。
ーとても厳かな雰囲気だったのが印象的でした。
坊守:
せっかくお寺でやるのだから、お道具も揃えて雰囲気を整えることには気をつけました。体験という気軽な催しではありますが、しっかりとした厳かな雰囲気を味わってもらうことが重要だと先生も仰ってくださいました。私の嫁入り道具として持ってきた茶釜も使えて嬉しかったですね。
信念をもつ力強さ
ー今回の大盛況の要因は何だと思われますか?
住職:
新しい取り組みを行うときは反対意見が当然でます。少々反対意見が出ても、信念をもって力強く旗を振る、力強くグッと引っ張っていく人が必要だと思います。それを担ってくれたのは若坊守でした。
坊守:
若坊守は我が子ですが、こんな力を持っているとは知りませんでした。幼い頃から誰かの後ろをついていくような大人しい子でした。それに、これまでお寺のことには必要以上には積極的には関わってこなかった。こんなにもお寺に対して熱い想いをもち、人を束ねる力があることに正直驚きました。
住職:
実は私や坊守は企画を考えるなかで度々反対することもありました。言い合ったことも一度や二度ではありません。それは今回のイベントを企画する若坊守や副住職のことを思ったときに「失敗はさせたくない」という思いが強かったからです。
坊守:
地域のご門徒さんと長年にわたって交流してきた感覚からすると、それは受け入れてもらえないのではないかと感じることが多かったので、老婆心ながら、ついつい口を出してしまいましたね。
住職:
思い返してみると、私も若い頃に良かれと思って新しいことをやろうとしたときに、先代からあまりいい顔はされなかった。自分も先代と同じような態度をとってしまっていました。歳を重ねて、体力も落ちて、身体もしんどくなる。どうしても新しいチャレンジについつい消極的になってしまいます。その立場にならないと分からない、年を取ってわかることがありますね。
ー今回大盛況になったのも、これまで住職と坊守が長年に渡ってご門徒さん方と丁寧に関係性を築いてきたからこそ、多くの方々がご協力くださったのだと感じます。最後に、今回の事業を通して見えてきた課題があれば教えてください。
住職:
どうやって継続していくか。今回大きなことをやって大盛況だったので、どうしても同じような規模のことをやりたいと思ってしまいます。だけど、ご門徒さんや地域の方々はボランティアでご協力いただいています。過度な負担はかけられません。ご門徒さんや地域の方々にどのようにしてご協力いただきながら継続していくことができるのか。華やかで大きければ良いわけではない。いかに皆さんと協力して、継続していくことができるかというのが課題です。次世代とのご縁づくりのつぼみを大切に育てていかなければならないと思っています。
インタビューアー:藤井一葉(子ども・若者ご縁づくり推進室委員)
執筆:霍野廣由(子ども・若者ご縁づくり推進室委員)
写真:安武義修・藤井一葉(子ども・若者ご縁づくり推進室委員)