インタビュー
副住職・若坊守に聞く いかに正覚寺らしい1日に仕上げていくか|寺院伴走支援レポート10
副住職・若坊守に聞く
いかに正覚寺らしい1日に仕上げていくか
正覚寺 若坊守・橘堂麻美さん(左)と副住職・橘堂晃一さん(右)
浄土真宗本願寺派 子ども・若者ご縁づくり推進室(以下、ご縁づくり推進室)仏教・浄土真宗と若者との新しい関係づくりをめざし、現代版寺子屋「スクール・ナーランダ」をこれまで教区共催で開催してまいりました。2023年度は、このノウハウを活かし一般寺院と若者とのご縁づくりをサポートする新たな試みとして"寺院伴走支援事業" 現代版寺子屋「スクール・ナーランダ」一般寺院開催を行いました。
約半年をかけ、大阪府堺市・正覚寺とご縁づくり推進室の委員たちが企画伴走、協力しながら、ゼロから正覚寺らしく、堺の地に息づくお寺のイベントを考えてきました。
そして、2024年2月17日 (土) 、大阪府堺市にある正覚寺にて【アジア×堺×正覚寺 CROSS BORDER】イベントを開催。当日は700人を超える来場者があり大盛況となりました。
イベントの詳細はこちら
「【アジア×堺×正覚寺 CROSS BORDER】イベントレポート」開催に至るまでには、葛藤やご門徒さんや地域の方々の助言、広報告知のために走り回る姿など、様々な局面がありました。
開催から1ヶ月が過ぎ、住職・坊守、門徒総代・寺役、そして副住職・若坊守のみなさんに、イベントを開催するまでの経緯、やってきたこと、課題、今後の展望など、率直な想いや考えを伺いました。今回は企画の要でもある副住職・若坊守へのインタビューです。
イベントを開催して終わりではなく、全国のお寺でもこれから先のお寺のあり方を考えるためのヒントとして、正覚寺のみなさんにインタビューにご協力いただきました!
-この伴走プロジェクトはお寺さんから手を挙げていただくことから始まりましたが、応募されたきっかけはなんだったのでしょうか?
若坊守:
子ども・若者ご縁づくり推進室の活動自体は、おもしろいことをされているな、と以前から興味を持っていました。今回の伴走プロジェクトもFacebookでのプロジェクトの説明会を拝見して、魅力的だなと思って応募させてもらいました。
実はこれまで、お寺で寺報の作成やチャリティーバザーとかもしていたのですが、思うようにいかなくて⋯⋯。正覚寺だけの力では、大きな壁を感じていました。
本願寺の寺院サポート講座『お寺のビジョン作成研修』という企画にも寺役さんたちも関わってくださり、これからのお寺のことを一緒に話すようになりました。そのあたりからみなさんがお寺に対して思っていることを共有しあい、お寺の未来について考えるような流れが生まれていました。
ただ、そこから具体的にどうやって広げていくか、これまでお寺に関わったことない人にお寺にきてもらうにはどうしたらいいか、と悩んでもいました。
副住職:
お寺の近くに新しいお家もできたりしているのですが、昔からこの地にいる方ではなく、引っ越して来られた方もいらっしゃいます。そういった新しい方たちと、どう関係を築いていけばいいのかと悩んでいました。
また、門徒さんの家では月参りがありますが、それが次の世代では、どうなるんだろうとか未来への漠然とした不安がありました。今お寺にきてくださっている方がいなくなったら、誰がお寺にきてくださるんだろうと、想像がつかなかったんです。
この企画も進めるにあたり、イベント当日何人くらいの人が来てくださるのか、わからないところもありました。
-お寺の未来への不安は他のお寺さんも抱えておられますよね。イベント当日は、近隣含めて700人も越える方が来られ多くの方がお寺に来られましたが、抱えておられた不安はどのように解消されたのでしょうか?
若坊守:
当日は本当に多くの方が来てくださって嬉しかったですね!アジア×堺×正覚寺 CROSS BORDERの企画自体、堺市の後援をいただいたり、飛び込みで近くの小中学校にもイベントのチラシを配布させていただくようなこともさせてもらいました。
-小学校への飛び込みですか!すごいですね。なかなかできることではないかなと思いますが、どんな流れで堺市の後援や小学校へのご案内をされたのでしょうか?
若坊守:
企画するにあたって、堺市内で開催されているマルシェイベントに、いち参加者として参加しました。その時に、堺のシンボルである古墳のグッズを作成、販売しておられる方とお話しするタイミングがありました。その方に正覚寺でのマルシェイベントのことを話してみたんです。そうしたら「それなら、堺市の後援とかとってみたらどうか?」とご紹介くださったのです。
そこから堺市に電話をして、いろんなやりとりや書類も提出して、後援をいただくことになりました。
小中学校へは、お電話をして校長先生とお話ししたりしました。正覚寺は、元々はこの土地の寺子屋だったこともあり、前住職の代から小学校のみなさんが歴史を学びに来てくださっていました。ですので、そういった背景のこともお話ししながら、企画へ賛同いただき、小中学校の全校生徒に配布していただきました。
もちろん、お寺、宗教ということもあり、 躊躇された学校もありましたが、最終的にチラシ配布をお願いした学校は全て引き受けてくださいました。宗教はなかなか難しいよと言われた時は心が折れかけましたが、 ご快諾いただいた先生もいてくださったことはうれしかったです。
-そうでしたか。当日は小学生もたくさん来られていましたよね。特に賑わっていたマルシェ・バザールについて聞かせてください。お店のお声かけはどうやって進められましたか?
若坊守:
私としても、お寺としても初めてのことばかりだったので、始めは誰に声をかけていいかわかりませんでした。けど、ご縁づくりの委員のみなさんから、お店は地元や近くに店舗をかまえているお店がいいのでは?とアドバイスもいただき、地域のお店を当初から考えていました。
それでもどこから声をかけようかと迷っていたんです。その頃に他のイベントでキッチンカーをだしておられる方にお声かけして「実は私今度、マルシェを企画するんですけど、全然わからなくて、困ってるんです。どうしたらいいか教えてもらえませんか?」と素直にお伝えしたら、その方がマルシェとかそういった屋外でのイベントをレクチャーしておられる方でもあったので、色々教えていただきました。
開催時期が2月だったこともあり寒さ対策や、飲食や雑貨のお店のバランス、店の配置、集客力のあるお店など、マルシェをするポイントを沢山教えていただきました。地域にそういった専門の方がいて、出会えたことは本当によかったです。
ー若坊守さんの素直な「わからないので、教えてほしい」ということを伝えられるのが、すごいなと思いました。大人になると意外と「わからない」って言いにくいかなと思います。覚悟のようなものを感じました。
若坊守:
実は、これまで私はあまりお寺のことをぐいぐい引っ張ってきた訳でもなかったんです。どちらかというと、前に出ないタイプと言いますか⋯⋯。
大学の頃はお寺と関係のない、マンドリンクラブに入っていましたし。けど、少し前からマンドリンクラブのOG会で役を引き受け、会報誌を作ることになり、印刷屋さんに行ったり、会報誌を作るためにAdobeのソフトの研修会とかに参加するようになりました。その学びがいつの間にかお寺の方にシフトしていった感じがあります。
-当日の企画についても聞かせてください。本堂での企画やバザールテントでの演出などはどうやって細かく決めていかれたのですか?
若坊守:
私自身は、これがやりたい!というのは全然なかったです。ご縁づくりの委員のみなさんや堺市のイベントで知り合った方から、いっぱい提案してもらいました。実は当初、いただいた提案を正覚寺のみんなに伝えたら「それは絶対に無理」と言われたこともありました。「無理無理」とみんなに言われすぎて、辛くなることもありました。私一人だけでやっているような⋯⋯ご提案してもらったどの企画も楽しそうだったので私はとてもワクワクしたのですが、それをいざみなさんに話すとみなさんがさーっと引いていくような感じもあって途中から私も怖気付いていました。
なので、自分のわかる範囲や想像のつく範囲での本堂やテントでの企画をしようかなと考えるようになりました。本堂で子どもたちと遊ぶこともあったので、カルタ大会とかは、まあやれそうだなとか。
-自分の経験や想像できる範囲の企画は安心感がありますよね。協力してくれ人にも説明しやすいと思います。
若坊守:
そうなんです。だから、今の自分でできそうなところ。無理ないところ。みんなが簡単に「うん」て言ってくれそうな企画を進めようとしていました。
それはそれで成り立ったと思います。けど結局、やめました。今となっては、あの時に飛び越えていかないと何も変わらなかったかもしれないと思っています。
-寺役のみなさんも同じような話をされていました。当日の企画内容は、正覚寺のみなさんのキャラクターや人柄が感じられるような企画が多かったように思いました。
若坊守:
そうですね。いろんな方にご提案いただいて、迷うこともあったり、不安になったりもしたのですが、最終的にはご縁づくりの委員の方から企画を作り込むうえでの大事なことを教えてもらったように思います。
「お寺らしいもの、正覚寺らしいもの、堺らしいもの。これまでやってきたものや考え方に合わせて開催するのは違うんじゃないか。お寺として本当にやったほうがいいことは何か?中心がマルシェではないのでは?」と⋯⋯。
市が開催しているイベントとはやっぱり違う。地元でこれまで開催されてきたイベントや自分の想像がつく範囲でのイベントになりそうなところを必死で軸を戻してもらえたように思います。あっちこっちで自分が流されるままなところがあったので。
-なるほど。そういった葛藤が若坊守さんの中にあったのですね。確かに企画の軸を持つことは「お寺」で何かをするには一つ大事な視点ですよね。
若坊守:
企画を最終的に決めていく時に、そういった軸に帰るような企画をすることにしました。
本堂での住職による仏舎利の解説、副住職と写真家・藤本さんとユザーンさんとのシルクロードに関する対話。これは今まで二人が積み重ねてきた研究や学びを伝えられる場となり、正覚寺には「こんなお坊さんがいるんだ」という認識を持ってもらえたかなと思います。
庫裡の方では、ご門徒さんによるお茶席の接待や外のテントでの青空法話や地元の語学学校のライさんによるネパール音楽披露など、どれもここでしか出会えないようなものだったと思います。
-企画の進め方について、ご門徒さんたちのインタビューをさせてもらった時に「あさみさんが必ずアンサーを返してくれた」という言葉が印象的でした。
若坊守:
いろんな人が関わってくださったので、正直にいうと間に立つことも多くて辛い時もありました。宙ぶらりんといいますか⋯⋯。大変は大変でした!
副住職:
突っ走ることもあったりして、抑えたりもしてましたね。私でも抑えきれませんでしたが(笑)
-細かいことですが、本堂内での写真の展示方法も見やすかったですね。とても配慮されていたように思いました。
副住職:
そうですね。こちらも初めてのことだったので、展示方法もだいぶ悩みましたね。最初は床に置くとか案もありましたが、最後は上から金具で吊るして、背景も見やすいように白布を垂らしたりして。
-そうですよね。「展示」と簡単に言っても、展示方法は色々あるし、経験したことないと悩みますよね。企画を通してよかったことや嬉しかったことを聞かせてください。
若坊守:
イベントの最後のインド古典音楽ライブの時に、委員の安武さんから「若いスタッフの子も呼んできて、一緒に音楽を聞こう。次につながる人がこの企画をいいと思わないといけない。またやりたいって思ってほしい、そういう視点も大事」と言われました。その時に改めて、こうやって何かいろんなことがつながっていくんだなーと実感を持てました。1日通して最後の言葉だったこともあり、今でも印象に残っています。
また、企画を考える時に、いろんな方と出会えてお話を沢山したこともよかったです。日本語学校を訪問して、そこでもいろんなお話ができました。当日、学校の生徒さんや先生もきてくださってましたしね。それと、ネット検索で「堺市 浄土真宗」と入力すると、正覚寺が上の方にあがってくるようになったのも嬉しいことですね。ネットを見てきてくれる方も増えるかもしれません。
-今後のお寺の展望を聞かせてください。
若坊守:
そうですね。今回のような大きな企画をまた同じようにしよう!というのは難しいとは思っています。それでも今回のことを通して知り合えた方、それはご門徒さんもだし、門徒さんでない方との関係も大事にしていきたいと思っています。
お寺は長く大切に使われてきた場、伽藍でもあります。多くの人が出入りすることの不安もまだまだ拭いきれない側面もあるのはあります。それでもできることから少しずつ、めげずにやっていきたいです。
インタビューアー:霍野廣由(子ども・若者ご縁づくり推進室委員)
執筆:藤井一葉(子ども・若者ご縁づくり推進室委員)
写真:安武義修・藤井一葉(子ども・若者ご縁づくり推進室委員)