インタビュー
門徒総代・寺役たちに聞いてみる企画への本音|寺院伴走支援レポート08
門徒総代・寺役たちに聞いてみる企画への本音
「今回はようお助けできません」と
根を上げるくらいの挑戦と正覚寺の一歩
正覚寺 寺役・橘堂さん(左) 総代・山口さん(中) 寺役・山本さん(右)
浄土真宗本願寺派 子ども・若者ご縁づくり推進室(以下、ご縁づくり推進室)仏教・浄土真宗と若者との新しい関係づくりをめざし、現代版寺子屋「スクール・ナーランダ」をこれまで教区共催で開催してまいりました。2023年度は、このノウハウを活かし一般寺院と若者とのご縁づくりをサポートする新たな試みとして"寺院伴走支援事業" 現代版寺子屋「スクール・ナーランダ」一般寺院開催を行いました。
約半年をかけ、大阪府堺市・正覚寺と浄土真宗本願寺派 子ども・若者ご縁づくり推進室の委員たちが企画伴走、協力しながら、ゼロから正覚寺らしく、堺の地に息づくお寺のイベントを考えてきました。
そして、2024年2月17日 (土) 、大阪府堺市の正覚寺にて【アジア×堺×正覚寺 CROSS BORDER】イベントを開催しました。当日は700人を超える来場者があり大盛況となりました。イベントの詳細はこちら
「【アジア×堺×正覚寺 CROSS BORDER】イベントレポート」開催に至るまでには、葛藤やご門徒さんや地域の方々の助言、広報告知のために走り回る姿など、様々な局面がありました。
開催から1ヶ月が過ぎ、住職・坊守、門徒総代・寺役、そして副住職・若坊守のみなさんに、イベントを開催するまでの経緯、やってきたこと、課題、今後の展望など、率直な想いや考えを今回は門徒総代や寺役3名に伺いました。
イベントを開催して終わりではなく、全国のお寺でもこれから先のお寺のあり方を考えるためのヒントとして、正覚寺のみなさんにインタビューにご協力いただきました!
夢物語のような企画の始まり
ー改めて正覚寺クロスボーダーの一日を振り返って印象に残っていることや、大盛況につながったことは何だったと思われますか?
山口さん(総代):
多くの人がお寺にきてくださって、大変嬉しかったですね。もちろん、ユザーンさんたちのインド音楽の演奏や舟川さんが法話をしにきてくださったこともあり、正覚寺だけの力だけではなし得なかったかなと思います。
それでも、正覚寺のメンバーでは住職の仏舎利の解説や副住職たちによるシルクロードのお話、堺市ならではのお茶席の接待など、当日やらせていただきました。
また、若坊守さんのパワーがすごかったですね。私たちも彼女にあんなにパワーがあるなんて知らなかったです。
若坊守さんは、三年前から正覚寺がだしている「正覚寺だより」というお手紙もわかりやすい読み物を門徒たちに配ってくれていることは知っていたので、一生懸命にお寺のことに取り組まれていることは感じていました。
それでもこの企画のお話を初めて聞いた時に「こんなんできるんかいな」と、とても心配になり、夢物語のようなお話やなと思っていました。
橘堂さん:
色々すごいことがありましたが、お茶席をご準備くださった坊守さんの力もすごかったですよね。主婦目線ですが、色んな方が来ていただいて準備できるように、事前に掃除もしっかりされていた。表にはでてこないし、気が付かれないところではありますが基礎あってこそですよ。
山本さん:
そうですね。私も時間が空いた時にお茶席に行かせていただきましたが、雰囲気のあるお部屋でお茶をいただくのはとてもよかったです。掛け軸やお菓子のお話しをしていただき、とても満喫していました。
真摯に向き合う姿勢とパワーがもらたすもの
ー今回の企画をお寺でされる上で不安に思われたことはありますか?
山口さん(総代):
私も長年お寺の総代をやらせてもらっていて、だいぶ老齢なこともあり、老婆心ながら心配事がたくさんありました。だから、あの時はみなさんのちょっと足をひっぱているような言い方もしてしまったなと今では申し訳ないとも思っていますが、それぐらいとても心配だったんです。
色んな提案を色んな方がしてくださって、総代として実は自信が全くなかったです。「今回はようお助けできません」と根を上げたこともあったんです。それでも、若坊守のパワーはすごかったし、彼女の成長を感じていました。
不安なことや気になることを毎回、会議で若坊守さんに伝えていたのですが、彼女は毎回私たちの言うことを拒否したり、否定したりしなかったんですよ。普通だったら「そんなん知らん!」とでも言われそうなもんですが、それをせずに、次に会議がある時には、必ず答えをしっかり持ってきてくれていました。毎回、私たちにとても真摯に向き合って、この企画を作り上げてくれて、そのパワーをとても感じたんですよ。
ーどうでもよければ、総代さんが投げ出すこともできたと思いますが、正覚寺さんでの企画の成功のためにいろいろ心配してくださったんですね。
橘堂さん:
若い世代の30,40,50代の人が沢山きてくれて、当初ターゲットにしていた通りだったのがすごかったですね。キッチンカーから何から、その世代の人達が興味を持ちそうなものを若坊守さんたちが準備してくれた。そういう意味では、年代が高い人は少し少なかったかもしれませんが......。
山本さん:
それが実は、年配の方が来てたんですよ!お茶席に!
だから、色んな世代が来てくれているなと感じていました。少し子どもさんが少なかったですが、小さい子どもさんへの企画がスタンプラリーとかくらいしかなかったので、それだけがちょっと残念でした。シルクロードや仏舎利の話は大人には大盛況でしたが、子どもたちにはさすがにちょっと難しかったかなと。次回はその辺も考えてみたいですよね。
ー確かに対象によって準備する内容は全く変わってきますよね。他にはどうでしょうか?
山口さん(総代):
お寺の地域性、立地はあまり良くないとは思っています。この辺りの地域には各町に一つはお寺さんがあるので、隣の町のお寺に興味をもって来てくれるとは思っていなかったです。
それと、大きな道路が近くにありますが、正覚寺自体は路地を一筋入ったところにあるので、人がたくさん来てくれるとは想像できなかったですね。
橘堂さん:
40代前後の人に来て欲しいと聞いていたので、無理かなと思いました。これまでお寺は年配の方、60代以上の方がよく来られていました。それ以下の人が来るなんて、思えなかったですね。
ーそうですよね。これまでお寺にこられていない人がどうお寺に来るかは想像がつきにくいですよね
山本さん:
最初に提案していたのは、お稚児さんとかお子さんを主体にして、小さい時からお寺や地域の文化に馴染んでもらうことがいいかなと話していたんです。子ども向けのことは私も経験があるので、考えやすいし、想像できたんです。私もそうやって育ってきたこともあったので。もっというと、その方法しか知らなかった。
でも、40代の方を呼ぶと聞いて、どうなるかわからないし、何をしたらいいのかわからないけど、とりあえずできることでお手伝いしよう!と決めていました。
副住職と手分けしてチラシを一軒一軒のポストに入れに行ったりもしました。
学びも雑談もしょうもないこと話せる「寄りやすい」お寺
ー今後の正覚寺の未来に向けて感じておられることを聞かせてください。
橘堂さん:
今回の企画のような大きなことはできないとは思っていますが、それでも何かは続けていきたいです。大変だとは思いますが。
山本さん:
今回のことで、近くの子どもたちがお寺の前を通った時に「ここのお寺でこの間、キッチンカーとか祭りみたいなことしてたんやでー」と話している声が聞こえました。そうやって、子どもたちの記憶に残っていくような場所でありたいですよね。
山口さん(総代):
お寺で日常生活で役立つ話や講演会とかもして欲しいですね。もちろん、仏教のお話も大事なのですが、私たちの生活の話をお寺で定期的に聞いてみたいんですよね。
お年寄りには、健康、体調、相続の話とか講座みたいな形で何か学びになることを知りたいし、みんなと話してみたいと思うんです。こういった地域、いわゆる中心都市ではないところには最新の知識や情報がどうしても届きにくい。だからお寺で知識の財産になるようなこともやってほしいのです。正覚寺にきたらこんなことが学べるよ、と地域で知れ渡るといいですよね。そうすると、みんながさらに寄りやすくなる。
ー地域の困りごとを解決とまでは言わなくても、解決の糸口とか知れる場所があるといいのかもしれませんね。
山口さん(総代):
そうですね。住職はお寺の専門であるから、相続のことは弁護士さんを呼んだり、健康のことはお医者さんを呼んだりといろいろあると思います。
山本さん:
私はみんなが集まれる場所があるといいなと思うんです。昔は、その辺のお地蔵さんの前でおばあちゃんたちが集まってずっと何か立ち話をしていたんですけど、最近はそういうのがないんですよ。お寺がそう言った意味でも「寄りやすい場所」になるのはいいですよね。
山口さん(総代):
そうですね。お説教や会議のあとに少しでも雑談の時間をつくったらいいと思いましたね。それが必要な気がします。最近は「雑談」をすることが減ってしまった気がします......。
難しい話を聞いたりした後に、何もせずに「じゃあまた」と解散ではなく、5分でも10分でも「あの話についてこう思った」とか「難しかったなー!」とか雑談する時間が必要なのかもしれません。ちょっと話す時間を設ける、雑談するだけで鬱憤をはきだしたり、気晴らしになると思うんですよ。
橘堂さん:
確かに、そういった立ち話をすることがコロナ以降は特に減りましたよね。昔はよくみんなお寺とか道端で、いろんなこと話してましたよね。しょうもない話も笑いながらしていた。あれはよかったのかもしれません。
今回は若い人を呼び込む企画でしたが、歳をとる程、体調が悪くなるなど、悩みを一人で抱えている人が増えていると思います。実は私も人間ドッグで検査結果がでるまで、とても不安になり、その不安も誰にも言えずに一人落ち込んでいた時がありました。そんな時、不安な気持ちを誰かに話せたら、少しは楽になるかもしれません。
山口さん(総代):
ちょっとしたことを吐き出せる場があるといいですよね。それがきっかけで深刻な話も、お寺でできるようになって心が軽くなるような方向につながっていくかもしれません。お寺がみんなにとって「寄りやすい」場所になるのはいいですね。
ーありがとうございました。みなさんそれぞれの視点で、イベントや正覚寺への想いを語ってくださいました。正覚寺がこれからどんなお寺となり、地域でより息づいていくか楽しみです。
本企画を実施してくださった正覚寺さんの成功や課題等々を通して、何か学びやこれからのお寺のヒントや手がかりになればと伴走支援を進めてきました。小さな一歩かもしれませんが、一つ一つの過程や想いを大事に大きなうねりにつながればと思います。
インタビューアー:霍野廣由(子ども・若者ご縁づくり推進室委員)
執筆:藤井一葉(子ども・若者ご縁づくり推進室委員)
写真:安武義修・藤井一葉(子ども・若者ご縁づくり推進室委員)